いつでも来てね!20代がつくる「いつでも子ども食堂」 “ないよりまし”の居場所を全国に
ドアを開けるの、ちょっとためらうけど
東京メトロ有楽町線要町駅から歩いて10分の場所にあるエデンは、間口が狭く、ドアの向こうが見えないので、大人でも入るのを少しためらう雰囲気。平日の午後、思い切ってドアを開けると、矢内さんと笹谷ゆうや店長(24)が迎えてくれました。
薄暗い店内にはカウンター7席と4人掛けのソファ席が1席。「カラオケバーだったところを居抜きで借りたんです」と矢内さん。「ここで子ども食堂?」と戸惑いましたが、笹谷さんは「きれいに整えられて、『さあ、来てください』という子ども食堂に入りづらい子どももいるかもしれない。こんなアンダーグラウンドな場所があるのを知るのもいいのでは」と屈託ない笑顔で説明してくれました。
実は笹谷さん、現役の東大生。2度目の4年生を終えてこの春卒業予定で、昨年3月には大手銀行からの内定も得ていました。ところが、矢内さんとの出会いが人生を変えたと言います。いずれ経営者になりたいと思っていた笹谷さんは、矢内さんのツイッターを「おもしろそうなことやってるな」と以前からフォローし、昨年2月、初めてバーのドアを開けました。何度か通ううちに、矢内さんの仕事の手伝いを頼まれるようになり、ついには店長に。そして銀行の内定を断ったというのです。「豊島区を盛り上げたい」と動画でその魅力を発信するユーチューバーでもあります。
午後5~6時、18歳未満は無料です
「うちには元々、『おごチケ(おごりチケット)』制度があって、お金がない若者は実質無料なんです」と矢内さん。2016年にオープンしたバーの常連客には、弁護士や医師、会社経営者など経済的に裕福な人もいて、そうした人たちが余分に置いていったお金をプールして、若いお客さんのために使っているそうです。
店は昼前から夜遅くまで不定休で開いていますが、「子ども食堂」は原則、午後5時から6時(高校生は午後10時)まで。18歳未満の飲食費は無料です。メニューはカウンターに入る人次第で、パスタや丼物などを出す日もあれば、料理が不得意な人が「店長」の日は、冷凍食品を温めるだけのメニューの日も。「多くの子ども食堂は、週1回とか月2回とか決められた日に、栄養価も考えた手厚いメニューを出すけど、うちはいつでも開いてるよ、というのがポイントです」
いざというとき、逃げられる場所に
矢内さんは困窮家庭の支援もしています。「職に就かず、気に入らないとわが子を殴り、たまに与える食事はポテトチップス、といった生活能力のない親もいるのが実態です。そういう環境に育つ子どもたちにはいざというとき、逃げられる場所が必要」と訴えます。
矢内さん自身は早起きが苦手で「会社勤めはできない」と、大学卒業後に起業。店舗兼自宅でリサイクルショップを始めました。たまったお金を元手に、次に「仲間で集まる場所をつくりたい」と開いたのがエデン本店です。事業計画も大掛かりな資金計画もない「しょぼい起業」と、矢内さんは言います。
バーでは日替わりでカウンターに入る人が持ち込みイベントを開催。参加者がひたすら数学の問題を解いたり、野球愛を語ったり、介護福祉士が介護の基礎を語ったり。来るもの拒まずのゆるい雰囲気を気に入った人たちが、矢内さんの手法をまねて、全国各地で次々とグループ店舗をオープンさせています。
この規模の店でも、できるんです
中野区にある「しょぼい喫茶店」もグループ店の一つ。ここも「いつでも子ども食堂」を開いています。メニューは料理好きの池田達也店長(24)が腕をふるうカレーやグラタンなど。パフェは「インスタグラムの写真を見ながら試行錯誤でレシピを研究した」そうです。池田さんのツイッターを見た高校生や、女子中学生とその母親がこれまでに訪れたそうです。「僕も上の世代の人に助けられてこの店を開くことができた。子ども食堂は、自分がしてもらったことを下の世代につないでいくための一つの手法」と考えています。
「いつでも子ども食堂」のお知らせは、店頭のポスターと矢内さんのブログ、ツイッターがメイン。矢内さんは「情報発信にあまり力を入れるつもりはないんです。でも、うちのことを知って、この規模の店でも子ども食堂ができるんだ、という人たちが続いてくれれば、『ないよりまし』の子どもの居場所が全国にできるはず」と期待しています。
各店の情報はツイッターで!
スケジュールは各店舗のツイッターで確認できます。
◇「エデン本店」 ツイッター
住所:豊島区千早2-18-4
◇「しょぼい喫茶店」 ツイッター
住所:中野区上高田2-54-8
矢内さんのブログはこちらです。
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