虐待による脳の変化と「後遺症」 治療しないと連鎖する 1日70人を診る専門医が警鐘
親の多くに被害経験 「体罰=しつけ」と許容する風潮も
子どもを虐待する親のほとんどは自身がDV(配偶者暴力)を受けたり、幼少期に虐待されたりした経験がある。フラッシュバックなど後遺症に苦しんでいる例もあり、虐待問題の解決には加虐側の親の治療も必要になる。
週に3日、浜松市社会福祉事業団の「子どものこころの診療所」(中区)で、1日に40人から70人ほどの親子を診ている。他の診療所でうまくいかなくて、やってくるケースも多い。
どうして、親が子どもに手を上げてしまうのか。最近は厳しくなってきたが、日本では、しつけのためなら暴力が許容される風潮がある。スポーツ指導者でも体罰を肯定する人がおり、そうやって指導された人が下の世代にまた体罰をする。暴力は連鎖する。
体罰で脳に異変 親の愛情と思い込む「虐待的絆」も問題
体罰を情緒的な問題だと捉えている人もいるが、脳に明らかな変化を及ぼす。体罰により子どもは、脳の高度な働きをつかさどる前頭前野の容積が萎縮し、見通しや予測が苦手になる。
虐待を受けて育った子どもは、それが愛情表現だと思うこともある。「虐待的絆」と言う。父親に暴力を受けた娘が、父親と同じような男性を結婚相手に選ぶケースも多い。安心感のない状態で育った人は、その状態が生きる基盤になってしまうからだ。
後遺症の治療には、子どもは少なくとも1年くらいかかる。親の年齢になると、より治りにくく、3年はかかる。治療しないで放置すると、虐待が起きやすい構造の家庭が生まれてしまう。
しつけは「ほめ伸ばし」が大事 短くしかり、長くほめる
子どものしつけには、ほめ伸ばしが大事だ。しかるときは短くしかり、良いことを長くほめる。子どもが悪いことをした時、体罰で分からせるのではなく、何が良い行動かを認識してもらうことが大事だ。
今の児童相談所は忙しすぎる。米国の同じようなセクションと比べると日本の児相の職員は、数十倍の人数の子どもを担当している。マンパワーもそうだが、子どもや親を本格的に治療する場がもっと必要だ。子どもだけを治療して、親元に帰しても意味がない。