虐待による脳の変化と「後遺症」 治療しないと連鎖する 1日70人を診る専門医が警鐘

鎌倉優太 (2019年9月13日付 東京新聞朝刊)
 東京都目黒区で昨年3月、当時5歳の女児が虐待死した事件など、親から子への暴力による痛ましい事件が後を絶たない。虐待を受けた子どもたちの心のケアを続けている浜松医科大の杉山登志郎(としろう)客員教授(68)=名古屋市=に防止策を語ってもらった。

「虐待を受けた子どもだけを治療しても意味がない」と語る杉山登志郎客員教授=浜松市中区鴨江の「子どものこころの診療所」で

親の多くに被害経験 「体罰=しつけ」と許容する風潮も

 子どもを虐待する親のほとんどは自身がDV(配偶者暴力)を受けたり、幼少期に虐待されたりした経験がある。フラッシュバックなど後遺症に苦しんでいる例もあり、虐待問題の解決には加虐側の親の治療も必要になる。

 週に3日、浜松市社会福祉事業団の「子どものこころの診療所」(中区)で、1日に40人から70人ほどの親子を診ている。他の診療所でうまくいかなくて、やってくるケースも多い。

 どうして、親が子どもに手を上げてしまうのか。最近は厳しくなってきたが、日本では、しつけのためなら暴力が許容される風潮がある。スポーツ指導者でも体罰を肯定する人がおり、そうやって指導された人が下の世代にまた体罰をする。暴力は連鎖する。

体罰で脳に異変 親の愛情と思い込む「虐待的絆」も問題

 体罰を情緒的な問題だと捉えている人もいるが、脳に明らかな変化を及ぼす。体罰により子どもは、脳の高度な働きをつかさどる前頭前野の容積が萎縮し、見通しや予測が苦手になる。

 虐待を受けて育った子どもは、それが愛情表現だと思うこともある。「虐待的絆」と言う。父親に暴力を受けた娘が、父親と同じような男性を結婚相手に選ぶケースも多い。安心感のない状態で育った人は、その状態が生きる基盤になってしまうからだ。

 後遺症の治療には、子どもは少なくとも1年くらいかかる。親の年齢になると、より治りにくく、3年はかかる。治療しないで放置すると、虐待が起きやすい構造の家庭が生まれてしまう。

しつけは「ほめ伸ばし」が大事 短くしかり、長くほめる

 子どものしつけには、ほめ伸ばしが大事だ。しかるときは短くしかり、良いことを長くほめる。子どもが悪いことをした時、体罰で分からせるのではなく、何が良い行動かを認識してもらうことが大事だ。

 今の児童相談所は忙しすぎる。米国の同じようなセクションと比べると日本の児相の職員は、数十倍の人数の子どもを担当している。マンパワーもそうだが、子どもや親を本格的に治療する場がもっと必要だ。子どもだけを治療して、親元に帰しても意味がない。