児童養護施設で育った学生が「施設の子に本を送ろう」 クラウドファンディング実施中

(2021年5月21日付 東京新聞夕刊)

昨年12月の呼び掛けで集まった本=JETBOOK作戦事務局提供

 この春に大学に進学した関西地方の児童養護施設出身の女性が、施設の子どもに本を贈るクラウドファンディングに挑戦している。プロジェクト名は「JETBOOK作戦」。「本を通じ、子どもたちに空高く羽ばたいてほしい」との思いを込めた。全国の100施設に100冊ずつ届けようと目標額は3000万円。「子どもたちが、たくさん並んでいる本から自分が読みたい本を選べるようにしたい」

「教科書が読み物」という現実に衝撃

 「本が読みたいから教科書を貸して」

 プロジェクトを立ち上げた山内ゆなさん(18)は昨年春、同じ施設で暮らしていた小学生の女の子の言葉にショックを受けた。本好きの山内さんにとって、本は「他人の人生を知り、人とつながっていると感じられる」大切なもの。友人に借りるなどして毎月10冊は読んでいたという。

オンラインで取材に応じる山内さん

 しかし、当時は新型コロナウイルスのため学校は一斉休校中で、友人と会うこともできない。施設に本を買う予算は潤沢でなく、寄付された本はあっても、同じタイトルのものも多かった。子どもが読みたい本がなく、教科書が「貴重な読み物」になってしまっている現実を痛感し、本を増やし、子どもが好きな本を選べるようにしたい、と思った。

 大学受験が落ち着いた秋に本格的にプロジェクトを考え始めた。

3000円の寄付で送りたい本を選べる

 高校生のキャリア教育などに取り組むNPO法人CLACK(大阪市)の協力を得て、昨年12月に施設の子どもに読んでほしい「とっておきの一冊」を、メッセージを添えて贈ってほしいとツイッターなどで発信した。すると、300人ほどの協力を得られ、さらに多くの人に知ってもらおうと、4月20日にクラウドファンディングをスタートさせた。

 寄付金から経費を除き、本などを送る計画。さらに、3000円を寄付した人は送りたい本を1冊、3万円以上は5冊選べるようにした。本を選びながら子どもや、子どもが暮らす施設に思いを巡らせてほしい。そんな願いも込めた。

昨年12月の呼び掛けで寄せられたメッセージ=JETBOOK作戦事務局提供

施設にいるのは「かわいそう」じゃない

 山内さんは高校生のとき、施設で暮らしていると伝えた友人に「聞いてごめんね」と言われた経験がある。2歳から暮らした施設は、子ども同士の上下関係が厳しいなど苦労もあったが「一生頼れる友達」がいる楽しい場所。「施設にいることは『かわいそう』ではない。でも、友達との会話で親の話が出て、つい適当に合わせてしまうこともある。施設出身であることを隠す必要のない社会にしたい」と力を込める。

 山内さんを応援する東京都内の男性(53)は「施設のイメージを変えたい、という思いに共感した。自分の人生を振り返りながら本選びに悩むのが楽しい」と声を弾ませる。

 寄付は31日まで。クラウドファンディングサイト「レディーフォー」の「JETBOOK」プロジェクトのページで受け付けている。山内さんは会員制交流アプリ「クラブハウス」で「@moomin0529」のアカウントで施設の現状などを発信している。

児童養護施設とは

児童福祉法に基づき設置され、親の不在、虐待や経済的理由、病気などで、家庭で暮らすことが難しい原則18歳未満の子どもを受け入れる施設。厚生労働省によると2019年3月末現在、全国に605カ所あり、2万4908人が暮らす。子どもの平均年齢は11.5歳、在籍期間は5.2年(2018年)。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年5月21日