虐待体験を話す子どもに寄り添う「付添犬」 警察や児相職員からの聞きとり前に緊張をほぐす
警察や児相職員との面接前に触れ合い
「深刻な虐待を受けていればいるほど、その体験を職員らに話すことは難しい」。名古屋市中央児童相談所の児童精神科医、丸山洋子さん(43)はそう説明する。虐待を受けた子どもは警察や裁判所、児相の職員らによる面接で、自らの体験を話すことになる。事実の確認のために必要な手続きだが、面識のない大人につらい体験を打ち明けることは、子どもにとって心理的な負担が大きいという。
ここで活躍するのが付添犬だ。同市中央児相では2020年度以降、面接直前に30分間、子どもが付添犬と触れ合う時間を設けている。4月下旬までの実施実績は5件で、面接全体の3分の1近くにあたる。
発祥は米国 「コートハウスドッグ」も
触れ合いには、犬のパートナー役である「ハンドラー」が同席する。面接時は当事者の子ども以外の第三者は立ち会えないルールがあるため、ハンドラーと付添犬は席を外さなければならない。「それでも子どもたちは面接直前に犬をなでたり抱きついたりして、緊張が取れた表情になった。その後に臨む面接では、しっかりと証言できていた」と、丸山さんは手応えを話す。
付添犬の発祥は米国で、国内では2014年に普及活動が始まった。主導したのは、大府市の児童精神科「楓の丘こどもと女性のクリニック」院長の新井康祥(やすあき)さん(47)。10年ほど前、当時勤務していた愛知県内の病院で虐待を受けた子どもを診療する際、犬と触れ合うアニマルセラピーを導入し、効果を確認したのがきっかけとなった。米国の「コートハウス(裁判所)ドッグ」という先進的な仕組みを学び、丸山さんら同様に関心を持つ医師や公益社団法人「日本動物病院協会」(東京)などの団体とともに取り組みを始めた。
全国に5頭 訓練と認証を受けてから
新井さんと連携して活動に取り組むNPO法人「神奈川子ども支援センターつなっぐ」(横浜市)によると、4月時点で付添犬は全国に5頭おり、虐待などの被害を受けた子どもの面接時などに活躍している。その5頭のうち1頭が、新井さんの病院にいるラブラドルレトリバーの「ハチ」、7歳の雄だ。
国内で広がりつつある付添犬だが、どんな犬でもなれるわけではない。相手の子どもの気持ちをくむことができ、なでられてもじっとできることが求められる。さらにハンドラーと一緒に訓練を積み、丸山さんら専門家による「つなっぐ」の付添犬認証委員会の認証を受ける必要がある。
関東地方の地方裁判所では昨年7月、被害者の子どもが刑事裁判の公判で証言する際、付添犬の同伴が許可された。新井さんは「将来的には、各児童養護施設や裁判所などの施設に1頭ずつが常駐し、職員や司法関係者がハンドラーになることが理想」と強調する。
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