「本人が勇気を持って告白…救える命だった」 野田虐待死、検証委が報告書 児相を批判

中谷秀樹、山口登史 (2019年11月26日付 東京新聞朝刊)
 今年1月、千葉県野田市の小学4年生栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=が虐待死した事件を巡り、児童相談所などの対応を調査していた県検証委員会は25日、報告書を森田健作知事に手渡した。心愛さんがアンケートで虐待を訴えていたことを挙げ、「本人が勇気を持って訴えるのはまれで、何としても守られるべきだったし、救える命であった」と一連の対応を批判した。
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森田健作知事(右)に報告書を手渡す川崎二三彦委員長=千葉県庁で

保護解除「意見聴取せず、返すことありき」

 検証委の委員長で、虐待問題に取り組む「子どもの虹情報研修センター」(横浜市)の川崎二三彦(ふみひこ)センター長は記者会見で「一つ一つの事例に丁寧に対応していく体制がなかった」と述べた。

 心愛さんは2017年11月、学校のいじめアンケートに父勇一郎被告(41)=傷害致死罪などで起訴=からの暴力を訴え、県柏児相が一時保護した。心愛さんは、被告からズボンを下ろされる性的虐待を受けたことも告白。しかし児相は、父方の祖父母が引き取る条件で約50日後に保護を解除した。報告書は「野田市などから意見聴取もしていない。家族に返すことありきだった」と指摘した。

アンケート漏えい「組織的判断の体制なし」

 2018年1月、野田市教育委員会が要求に応じ、心愛さんのアンケートを勇一郎被告に渡した行為を「誰がどう対応するか組織的判断を下す体制がなく、個人情報に関する知識も乏しかった」と批判した。

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心愛さんが書いたいじめに関するアンケート(余白の書き込みは担任のもの)

 勇一郎被告は心愛さんに「お父さんにたたかれたのはうそです」と手紙に書かせて児相職員に示し、2018年3月に祖父母宅から自宅に連れ帰った。心愛さんは同月、児相職員に「手紙はお父さんに書かされた」と話したが、再び保護する措置を取らなかった。

 同年4月に担当の児童福祉司が交代したが、心愛さんが死亡するまで継続的な対応がなかった。報告書は「ミスがミスを呼び、リスク判断が不十分なまま保護が解除され、漫然と推移した末に痛ましい結果を招いた」と結論付けた。

野田市長「虐待防止マニュアル改定を急ぐ」

 森田知事は「このようなことが二度とないよう、厳しい指摘を胸に刻む」と述べた。野田市の鈴木有市長は「報告を真摯(しんし)に受け止める。市と児相との連携に特化した児童虐待防止マニュアルの改定を急ぐ」とコメントした。

 事件では、心愛さんに自宅で冷水シャワーを掛け続けるなどの暴行で死なせたなどとして勇一郎被告が傷害致死罪などで起訴された。千葉地裁で公判前整理手続きが行われており、公判期日は未定。傷害ほう助罪に問われた母親(32)は、今年6月に千葉地裁で懲役2年6月、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決が言い渡され、確定した。

川崎二三彦委員長のコメント

 何としても命を守る必要があった。勇一郎被告は単に高圧的とかアウトローではなく、用意周到だった。関係機関は特徴を十分把握できていない面もあった。県児童相談所には一時保護の基本線をまずはしっかり守ってほしい。そうすれば父親への対応も見えてくる。(事件の)背景的なことをもう少し考えたいこともあったが、報告書に盛り込んだ課題や提言は抜け落ちたとは思っていない。

報告書の要旨

 野田市立小4年の栗原心愛さん虐待死事件を巡る県検証委員会の報告書の要旨は次の通り。

【一時保護の決定】
 2017年11月7日、心愛さんの一時保護に際し、児相が父勇一郎被告に虐待の通告元や、保護の理由として心愛さんが家に帰りたくないと言ったことを伝えたことは不適切だった。

【保護中の調査】
 心愛さんは同28日の児童心理司との面接で「夜中にパパに起こされ、急にズボンを下ろしてきた」と説明。12月13日に問診した精神科医は、勇一郎被告に口と鼻を手で押さえられて「息はできないだろう」と言われ、生命の危険もある状況だったとも指摘し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断。家族の同居は困難とした。

【保護解除の判断】
 児相は12月27日の援助方針会議で、父方の祖父母宅での生活を条件に一時保護の解除を決定。会議は引き取りが前提で、安全に対する懸念が軽視された。心愛さんの気持ちや性的虐待を踏まえれば、この時点で一時保護を解除すべきではなかった。

【解除以降の対応】
 2018年1月15日、市教育委員会は勇一郎被告の求めに応じ、アンケート回答のコピーを渡した。心愛さんの安全を脅かす危惧があることは理解できたはずだ。

 児相は3月19日、勇一郎被告が以前示した「お父さんにたたかれたのはうそです」との手紙について、被告から指示されて書いたと心愛さんから聞き取った。心理的虐待と捉え、一時保護などを検討すべきだった。

【その他の課題】
 市は早い段階でドメスティックバイオレンス(DV)が疑われる情報を得ていたが、DVに着目した支援がほとんど意識されていなかった。

 勇一郎被告は一貫して虐待を否定していたが、(緊急性の評価に使われる)リスクアセスメントシートでは「虐待に対する認知に改善が見られる」などの項目が「はい」となっていた。保護解除後に態度は一変しており、判断は皮相的だった。

【提言】
 児相の人員増や研修を充実させる。児相や自治体の職員が高圧的な保護者へ毅然(きぜん)とした対応ができるよう、警察や弁護士との連携強化を図る。

【おわりに】
 勇気を持って訴えた心愛さんは、何としても守られるべきで、救える命だった。ミスがミスを呼び、リスク判断が不十分なまま一時保護が解除され、在宅支援に際しても修正されず、漫然と推移した末に痛ましい結果を招いた。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年11月26日

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