「お父さんにぼう力を受けています」野田市の女児死亡 市教委がアンケート回答を父に渡していた

太田理英子 (2019年2月1日付 東京新聞朝刊)

 千葉県野田市で、父親から暴力を受けていた小学4年生の女児が死亡した事件。女の子の命が奪われてしまった背景に、関係機関の不適切な対応があったことが次々と明らかになってきています。

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野田市のいじめ調査アンケートの用紙

 千葉県野田市の小学4年栗原心愛(みあ)さん(10)が自宅浴室で死亡した事件で、心愛さんが2017年11月、いじめに関する学校アンケートの自由記述で「お父さんにぼう力を受けています。先生、どうにかできませんか」と回答し、助けを求めていたことが、野田市教育委員会などへの取材で分かった。

守られなかった”ひみつ” 「父親の威圧的な態度に萎縮した」

学校は「ひみつをまもりますので、しょうじきにこたえてください」とアンケートを実施していたが、市教委は心愛さんの回答のコピーを18年1月、父親の勇一郎容疑者(41)=傷害容疑で逮捕=に渡していた。

 市教委の担当者は「威圧的で執拗(しつよう)な態度に萎縮し、恐怖心から渡してしまった」と釈明した。

 野田市の鈴木有市長と市教委は1月31日記者会見し、市教委職員が心愛さんの回答内容を口頭で読み上げた。アンケートは、心愛さんが当時通っていた小学校が17年11月6日に実施。いじめを受けているかとの問いに「はい」を選び、相手を「かぞく」としていた。 

◇アンケートの自由記述全文

お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか。

「先生、どうにかできませんか」女児のSOSは筒抜けに…

 先生、どうにかできませんか-。千葉県野田市の小学四年栗原心愛(みあ)さん(10)が自宅浴室で死亡した事件で、心愛さんがいじめに関する学校アンケートにつづったSOSは、父親の勇一郎容疑者(41)=傷害容疑で逮捕=に筒抜けになっていた。父親の威圧的な態度に萎縮したという野田市教育委員会。幼い命を守る意識の欠如が改めて浮き彫りになった。

「名誉毀損で訴える」「娘が見せていいと言った」

 市教委によると、心愛さんは2017年11月6日、当時通っていた、死亡時とは別の市内の小学校が実施したいじめ調査アンケートで、「お父さんからぼう力を受けています」などと訴えた。

 学校から通報を受けた県柏児童相談所は翌日、父親からの虐待の疑いがあるとして、心愛さんを一時保護。その後、「市や親族らのサポートを得られる見込みになった」として、保護を解除した。

 勇一郎容疑者は解除後の18年1月12日、妻と学校を訪れ、「一時保護が解除されたのは暴力がない証拠」「名誉毀損(きそん)で訴訟を起こす」と大声を出すなどして抗議。心愛さんのアンケートの回答を見せるよう強く要求した。

 対応した校長や市教委職員はいったんは拒否。しかし、勇一郎容疑者らは3日後、「アンケートを両親に見せていい」との内容を心愛さんが手書きで記したとする同意書を市教委に示し、改めて開示を要求。「娘が書いた」との母親の説明を信じ、心愛さんに直接確認しないまま、市教委指導課の矢部雅彦課長らがコピーを渡した。

 心愛さんは18年1月18日に市内の別の小学校に転校し、その後は学校のアンケートに虐待について記入することはなかった。

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市教委は児童相談所に報告していなかった

 同課は勇一郎容疑者にアンケートのコピーを渡したことを市上層部や柏児相に報告しておらず、周知したのは1月24日に心愛さんの遺体が発見された後だった。

 野田市は31日、市情報公開条例に違反するとして、関係者の処分を検討するとした。

 佐藤裕(ひろし)教育長は「子どもを守り切れず、申し訳ない。今後はアンケートの取り扱いを十分に注意し、子どもたちの声を聞いていきたい」と話した。

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