虐待されているのに一時保護されない子に「社会的養護」を 支援団体への補助を拡充する法改正案提出へ
児相が手を引いても、続いた暴力
「ずっと、家にいたくなかった」
神奈川県在住の20代の男性は、幼い頃から勉強や家事の手伝いで、親から殴られたり、怒られたりし、「心が落ち着かない感じ」で育った。小学生の時、体にあざが見つかり、児相が親との面談を続けたが、一時保護にはならなかった。
約1年後、児相は虐待が落ち着いたと判断し手を引いたが、暴力や暴言は続いた。親は「勉強しないなら出ていけ」と責め、アルバイトで帰宅が遅くなると「(生活音が)うるさい」と男性を怒鳴った。
男性は19歳で大学を中退して家出。ネットカフェで数カ月過ごし、「家出」「保護」「20歳まで」などと検索し、自立援助ホーム「湘南つばさの家」(茅ケ崎市)にたどり着いた。その後、介護の仕事に就き、一人暮らしを始めた。
つばさの家をたびたび訪れ、「後輩」たちと食卓を囲む。「つばさの家で、初めて安心感を知った。ここを見つけられなかったらと思うと、ぞわぞわする」
「埋もれた子」に継続的な支援を
全国の児相が2020年度に対応した家庭内での虐待相談件数は20万件。このうち一時保護になったのは2万7000件で、その後、施設や里親家庭で暮らすケースは4300件ほど。多くは面談などで終わる。
「虐待の解決は簡単ではない。家庭で生活する子にも児相の継続的な支援が必要だが、行き届いていない」。つばさの家の前川礼彦(あやひこ)ホーム長(48)はそう語る。行政や支援団体などが気付いていない「埋もれた」子が一定数いるとして、目を向ける必要性を説く。
忙しい児相 手が回らない現状
児童養護施設出身者らに限らず全ての人に居場所を設け、相談に応じている東京都新宿区のNPO法人「日向ぼっこ」。活動を続ける中、スタッフは「社会的養護を受けられないまま育ち、生きづらさを抱える若者が多くいる」と話す。
社会的養護とは、保護者の病気や虐待などにより家庭で暮らせない子どもを、公的な責任として社会で養育、支援する考え方だ。施設や里親の元で暮らす子だけでなく、家庭内で生活する子への支援も含むが、児相が忙しく手が回っていないのが現状だ。
児童福祉法に明記する必要性
厚労省の社会保障審議会専門委員会は昨年、児相と協力して在宅の子を支援する民間団体を増やす必要性があると言及。国や自治体が団体に対して補助金を出すよう児童福祉法に明記する必要があると指摘した。厚労省は同委員会がまとめる報告書を踏まえ、通常国会に同法改正案を提出するとしている。
社会的養護に詳しい柏女霊峰(かしわめれいほう)淑徳大教授(子ども家庭福祉学)は「家庭で暮らす子を支援するため、民間団体によるケアプラン作成やショートステイ活用などの支援策を充実させるべきだ」と話す。虐待のほか、ヤングケアラーなど支援が必要な子の存在に気付くため、「子ども食堂や児童館などあちこちにアンテナを張っていく必要がある」と指摘した。