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〈虐待サバイバーと家族・下〉再会して分かった父の孤独 暴力の連鎖を止めるものは

(2019年1月31日付 東京新聞朝刊)

◇〈虐待サバイバーと家族・上〉はこちら

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虐待防止活動をしている橋本隆生さん(左)は「暴力で子どもを支配しない」と肝に銘じている=東京都内で

当事者が苦しさを語り合うと「実は自分も…」

 「目の下の傷は父に殴られた痕。義母には足にアイロンを押し付けられた。僕は虐待されて育ち、幼い弟は父に殴られ風呂場に閉じ込められ、死にました」

 昨年十月、名古屋市であった「虐待、当事者からの発信」と題した勉強会。東京都の会社員で「虐待サバイバー」として講演やブログなどの活動をする橋本隆生さん(40)=活動名=が、約40人に語った。

 その後、参加者らは円になって「父から性的虐待を受けた」「イライラして子どもを虐待してしまいそう」など、体験を語り合った。「僕の経験を話すと『実は自分も』と口を開き始める人がいる。心に閉じ込めてきた苦しさを聞いてもらうことが、虐待と向き合い、どうすればなくせるか考える第一歩になる」と橋本さんは言う。

「たたいてしまうかも」から「守らなくては」へ

 橋本さんは4歳で両親が離婚。父と義母から虐待を受けた。今は妻(32)と、小学生の長男と保育園児の長女がいる。「夫は優しくて料理、掃除、洗濯もしてくれる。保育園の送り迎え、小学校の保護者会も出てくれて本当に助かっています」。共働きの妻は橋本さんに感謝する。

 だが、橋本さんも長男が生まれた直後は、ときに恐怖を感じた。泣いてばかりの長男と、初めての育児にイライラする妻。「僕は、自分を虐待した父の血をひいている。無意識に子どもをたたいてしまうかも」

 しかし、長男に甘えられたり、「パパ」と呼ばれたりするにつれ、「自分が守らなくては」との思いが強まった。同時に「なぜ父は、自分や弟を虐待したのか」を知りたくなった。

虐待した父と再会「孤独だったのでは、と思う」

 約3年前、橋本さんはほとんど会っていなかった父を訪ねた。「しつけだった。おまえがそんなに苦しんでいたとは知らなかった」。父はそう話した。弟の事故のことは、「申し訳ないことをした。毎日遺影に手を合わせている」とぽつりと話した。その父は先日、急死した。数年前に義母とも別れて一人暮らしだった。

 「自分と弟を虐待していた当時の父は、孤独だったのではないかと思う。母と離婚し、会社員として働きながら男手一つで育てていた父は追い詰められていたのだろう。父が苦しさを打ち明けられる人、助けてくれる人がいたら、弟は死なずに済んだかもしれない」。橋本さんは言う。

 母の消息も分かり、昨年夏、橋本さんは35年ぶりに母に会った。「私が2人を引き取っていれば」。母は泣いた。母は離婚前、橋本さんと弟を連れて家を出たが、父に連れ戻された。父が親権を取り、経済力がなく、泣く泣く子どもたちと別れた。後に、警察から事情を聴かれて弟の事故を知ったという。

親をケアすることが、子どもを守ることにつながる

 しつけと虐待は紙一重のこともある。だが、橋本さんは「暴力で子どもを支配しない」と固く決めている。家で虐待された橋本さんが、学校では同級生をたたいたように、暴力は連鎖するからだ。

 橋本さんの妻も、長男に思わず手が出てしまったことがある。「私って怒りすぎだよね。子育てに向いてないよね」。落ち込む妻に、橋本さんは「子育ては大変だよね」と笑いかけた。「育児に協力的で、味方になってくれる夫がいるのに、私は何をしてるんだろうと反省した」と妻は話す。

 「100パーセントの親なんていない。虐待は誰にとっても人ごとではないけれど、暴走しそうな気持ちを止めてくれる人の存在が抑止力になる。親をケアすることが、子どもを虐待から守ることにつながる」。橋本さんは言う。 

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元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年1月31日