〈虐待サバイバーと家族・上〉家庭は地獄だった。弟は父に殴られ…事故死扱い

(2019年1月30日付 東京新聞朝刊)
 会社員として働く傍ら、ブログや講演会を通じて、虐待防止を訴えている東京都の橋本隆生さん(40)=活動名=という男性がいます。「虐待されている子どもに、生き抜いてほしい」。その思いに加え、「暴力の連鎖を止めたい」との願いを込めて活動する橋本さんと家族の思いを追いました。
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「妻と子どもが自分を変えてくれた」と話す橋本隆生さん(左)=東京都内で

毎日のように殴られ、5歳の時に悲劇が

 家庭は暴力の温床。地獄だった。

 「虐待サバイバー」として、講演やブログなどの活動をする東京都の橋本隆生さん(40)=活動名=が母と別れ、父と2つ年下の弟と暮らし始めたのは4歳のとき。両親が別れるとき、父は、母を蹴り倒した。以来、母の消息はずっと分からなかった。

 物心が付いたころから、父に毎日のように殴られた。そして5歳の時、悲劇は起きた。夕飯のコンビニ弁当を残し、ゴミ箱に捨てた弟に父が激高。顔を何発も殴り続けた。「ごめんなさい」。泣き叫んでいた弟がぐったりすると、父は風呂場に連れて行き、「ここで反省してろ!」と閉じ込めた。部屋に戻って来た父は、橋本さんに弟の様子を見に行くように言った。風呂場に行くと、弟はお湯を張った浴槽にうつぶせで浮いていた。父は警察に事情を聴かれたが、事故死として扱われた。

自分も同級生を…あだ名は「暴力人間」

 その後、父は再婚。小学4年生の時に、義母が弟を産んだ。橋本さんが弟に触ろうとすると「汚い手で触らないで」「バイキン」などと義母に言われた。次第に父と義母の仲は悪化。義母は怒りの矛先をますます、橋本さんに向けるようになった。「アンタさ、本当、腹立つ顔してる。前のお母さんに似てるのかな。死ねよ」。足に熱いアイロンを押し付けられたり、正座した膝を足で踏み付けられたりした。

 小学校で友達はほとんどできなかった。言うことを聞いてくれないと、橋本さんは同級生をたたいたり、蹴ったりした。付いたあだ名は「暴力人間」。「家で虐待されていることは、誰にも言えなかった。やり場のない怒りや寂しさ、ストレスを他の子をたたくことで解消していた」。母が恋しかった。

「家に戻るなら、人を殺して鑑別所に」

 中学に入ると、橋本さんは不良グループと付き合い始めた。交友関係をとがめる父に、包丁を突きつけられて家出。コインランドリーで寝泊まりした。警察に補導され家に戻され、父に殴られてはまた家出した。警察官に「家に戻るなら、人を殺して鑑別所に行きたい」と訴えた。児童相談所の一時保護所を経て、児童養護施設に入所。約1年、施設から中学校に通った。

 中学校の掲示板で、働きながら勉強できる全寮制の高校があると知り、入試を受けて合格。車の部品の組み立ての仕事をしながら、高校で学んだ。お金をためて、早く自立したかった。高校卒業後は、コンビニ店員やトラック運転手などの仕事を転々としながら、バンド活動に夢中になった。

妻と子どもたちが、僕を変えてくれた

 28歳の時、バンドが縁で妻(32)と出会った。妻は複雑な家庭で育った自分を、何の偏見もなく受け入れてくれた。人から傷つけられないように強がり、弱みを見せないように生きてきた橋本さんが、初めて得た安らぎだった。

 幼い頃から憎む対象でしかなかった家庭。それを自分が持つことは考えたこともなかったが、30歳で結婚した。今、橋本さんと妻には、小学生の長男と、保育園児の長女、2人の子どもがいる。

 「あんなにひどい虐待をされて恐れ、憎みながら、それでも子どものころ僕はどこかで親に褒めてほしい、大切にされたいと切望していた。僕を頼ってくれる妻と子どもたちが、僕を変えてくれた」

◇〈虐待サバイバーと家族・下〉はこちら

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  • 匿名 says:

    私の家庭もそうだった、子供は逃げたくても家が世界の全て、少なくとも小学生の間はそこから離れると考える事も出来ないし、その手段もない。
    私も外の人間と出会って初めて救われた、一度壊れてしまった家庭は修復できない、問題の発生している時期に子供が主体となってそれを解決することなど100%不可能。何故なら親の人生そのものが破綻しているのだから。
    とにかくこんな場所から一刻も早く逃げていいのだと、違う世界があるのだと被害児童に手段と具体的な逃避場所を提示してあげる事だけが唯一の救済の道であると強く実感した。

      

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