心愛ちゃんに捧げる詩、施設の子どもの前で歌い続ける理由 「本気で助けたい大人はいる、と伝えたい」

鈴木みのり (2022年1月23日付 東京新聞朝刊)

自身が作詞作曲した「心愛ちゃんに捧げる詩」を歌う千葉みらい響の杜学園の渡部靖久園長=千葉市中央区で

 千葉県野田市の小学4年栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=が父親から虐待を受け、死亡した事件から24日で3年となる。虐待を受けた経験のある子どももいる、千葉市中央区の児童養護施設「千葉みらい響の杜(ひびきのもり)学園」の園長渡部靖久さん(62)は心愛さんへの思いをつづった歌を作った。若者や施設の子どもたちに歌い続けている。「事件を風化させてはいけない」と。

事件直後「忘れてはいけないことを歌に」

 歌のタイトルは「心愛ちゃんに捧げる詩(うた)」。「ごめんね 心が痛みます」「二度とこんな悲しい出来事 起こさない」と思いを歌う。

 渡部さんは、児童自立支援施設の職員などを経て千葉県内に児童養護施設や自立援助ホームなど6つの施設を設立。これまでも自身や教え子の思いをつづった歌を約20曲作り、子どもらに聴かせている。

 心愛さんの歌を作ったのは2019年1月の事件直後。心愛さんは亡くなる前に学校のアンケートで父親からの暴力を訴えていたが、学校や児童相談所など関係機関の連携不足により十分な対応がされなかった。「事件が起きたのは大人の責任。忘れてはいけないことを歌にしよう」

 心愛さんに向けた言葉を思うままにつづった。「大人に思いが届かなかったことが、どんなにつらく、悔しかったことだろう」。完成した曲は、施設の子どもや見学者、短大の授業の受講生らに年10回ほど披露している。

「心愛ちゃんに捧げる詩」の歌詞全文

辛かったろう  悲しかったろう

誰も助けてくれなくて

ごめんね ごめんね

心が痛みます

辛かったろう 怖かったろう

あんなに声を上げたのに

助けてと 勇気を出して

訴えていたのに

ごめんなさい 悔しくて

何もできない自分が

何のために 生まれたの

君はそう思うでしょう

愛する心と書いて

私は「みあ」と言うの

なのに 愛されないなんて

そんなことあるの

お母さん 怖いよ

あんなに泣き叫んだのに

お母さん 遠くに

私を置いて行く

辛かったろう 悲しかったろう

誰も助けてくれなくて

私たちは 誓うよ

二度と 二度と

こんな悲しい出来事 起こさない

あなたの死を 無駄にはしない

愛する心 大切に するから

虐待経験ある子に… ためらいもあった

 施設の子どもの多くは虐待を受けた経験があり、心愛さんの歌を聴かせることは「当時の経験を思い出させてしまうのではないか」とためらいもあった。だが、「皆を助けたいと本気で思っている大人はいる」というメッセージを伝えたいと思っている。

 今月8日夜、渡部さんは施設の子ども約30人を前に命の大切さを教える授業を行った。「3年前の今の時期、(父親に)お風呂場で冷たい水を浴びせられて、亡くなった女の子がいました」と語り、歌を披露。「みんなとこれからも、ともに生きたい」と伝えた。

 授業後、高校1年の男子生徒(16)は「自分が生きる使命を見つけたい」と涙を流した。小学校高学年の女子児童は、その日の日記に「私も家にいたら心愛さんみたいに大人の人に簡単に命をうばわれてしまうのかな~!でも私は簡単に命をうばわれてでも良いのでいつ死ぬのかわからない人生を家族で生きたいです」と書いた。

 厚生労働省によると、2020年度の児童相談所での虐待相談対応件数は約20万5000件で過去最多を更新。渡部さんは「親だけではなく、地域の皆で子育てをすることが大切。子どもが大人にたたかれる心配もなく、安心して休める社会になってほしい」と訴える。

野田市女児虐待死事件

 千葉県野田市の小学4年栗原心愛さん=当時(10)=が2019年1月24日、自宅浴室で死亡した。心愛さんに冷水のシャワーをかけるなど暴行を加え、十分な食事や睡眠を与えなかったとして、父親の勇一郎受刑者(44)が傷害致死罪などで起訴され、昨年3月に懲役16年の東京高裁判決が確定した。母親(34)も傷害ほう助罪で懲役2年6月、保護観察付き執行猶予5年の判決が確定。心愛さんは学校のアンケートで「お父さんにぼう力を受けています」と訴え、児童相談所に一時保護されたが、翌月に解除されるなど行政の対応が問題となった。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年1月23日