心愛さん虐待死から4年、千葉県で児相の人手不足が深刻化 相談が増え多忙に…離職・休職が増加 新規採用も定員割れ

加藤豊大、鈴木みのり (2023年1月25日付 東京新聞朝刊)

事件から4年を迎え黙とうする県職員ら=県庁で

 野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=が父親から虐待され死亡した事件から、24日で4年を迎えた。千葉県は再発防止に向け、児童相談所職員の増員を進めるが、職員の離職や休職が目立つ。2023年度の新規採用も今月現在で大幅に定員割れしており、人員不足は深刻だ。専門家は「長期的視点で若手職員を育成する必要がある」と指摘する。

214人を増員したが、77人が…

 事件を受け、千葉県は2026年度までに松戸市と印西市にそれぞれ児相を新設し、今年3月までに児相職員を260人増員する計画を立て、ここまで214人を増やした。

 しかし、昨年は県内児相職員の離職と休職が相次いだ。千葉県健康福祉政策課によると、2022年度は11月末時点で退職が9人、休職が10人、1カ月以上の長期療養休暇が29人。育休・産休の29人を含め計77人が現場を離れた。

 休職や長期療養休暇の原因は、精神面の不調が多い。背景には児相への相談件数増加に伴う業務多忙があるとみられる。2021年度には県内の児相に1万1870件(速報値)の相談が寄せられ、過去最多を12年連続で更新している。

各都県で「パイの取り合い」

 県は新規職員の採用にも苦慮する。人事課によると、2022年度、児童福祉司の採用予定数が55人なのに対し、実際に採用できたのは9人のみ。児童指導員は73人に対し24人しかいない。「心理」職種は51人に対し30人にとどまる。

 不足分を埋めようと、県は少なくとも平成以降で初めて、県外で採用活動を実施。今月20日、名古屋市で児童福祉司の選考考査を行ったが、受験者は1人だった。

 19日の定例会見で熊谷俊人知事は「首都圏の各都県が児相の人員強化に取り組んでおり、確保が難しい。限られたパイを取り合う中、働く環境を充実させ、選ばれる児相にならなければいけない」と語った。

若手が採用後すぐ複雑な事案に

 児相での勤務経験がある東洋大の鈴木崇之教授(子ども家庭福祉学)によると、かつては20代で児童福祉の現場を経験し、30代くらいで保護者らの悩みにも柔軟に対応できる児童福祉司などになるキャリアが一般的だったという。

 「人手不足の現在は採用後すぐに若手が複雑な事例に向き合わざるをえず、ミスマッチを感じて辞めてしまう例もあるようだ」

 鈴木教授は「特効薬はない。職員らをじっくり育てる研修や、経験に応じた仕事を任せられる人事制度を、長期的な視点で改めて設計することが今必要だ」と語った。

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 千葉県庁では24日朝、県児童家庭課の職員27人が黙とうをささげた。篠塚かおる課長は職員らを前に「10歳の女の子が発信したSOSを周囲の大人が受け止め切れなかった反省をこの先も決して忘れてはならない」と呼びかけた。

野田市女児虐待死事件とは

 野田市の小学4年栗原心愛さん=当時(10)=が2019年1月24日、自宅浴室で死亡した。心愛さんに冷水のシャワーをかけるなどの暴行を加え、十分な食事や睡眠を与えなかったとして、父親の勇一郎受刑者が傷害致死罪などで起訴され、20年3月に懲役16年の東京高裁判決が確定した。心愛さんは事件の前、児童相談所に一時保護されたが、翌月に解除され、行政の対応も問題視された。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年1月25日