参院選で考えたい児童相談所の窮状 千葉市の一時保護所は年330日が満員状態 専門性のあるスタッフを増やすには?

山口登史 (2022年7月7日付 東京新聞朝刊)
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2所態勢で運用が始まった千葉市の児童相談所。手前の西部児童相談所の執務室が新たに設置され、その奥に東部児童相談所がある=千葉市美浜区で

 5月下旬の昼下がり。千葉市が運営する児童相談所では、職員が慌ただしく外出したり、来所する家族連れの対応などに追われていた。室内には子どもの泣き叫ぶ声が響き渡る一方、職員と親しげに話しながら居住スペースに戻る子どもの姿も。「1年のうち、330日ほどは(虐待などを受けた子どもを両親と引き離す)一時保護所が定員に達している状況」と児相の担当者は窮状を口にする。

虐待相談が増え、支援が届きにくく

 2020年度の千葉県と千葉市の児童虐待相談対応件数は1万1629件。近年は右肩上がりで増加する。

 虐待の種別では、言葉による威圧やドメスティックバイオレンス(DV)を子どもが目撃するなどの「心理的虐待」が全体の半数を占める。殴る蹴るなどの暴力を加える「身体的虐待」は3割前後。家庭事情が多様化する中、市の中堅児相職員は「対応が難しいケースが増えており、スタッフの専門性の確保が必要」と強調する。

 野田市の小学4年栗原心愛さん=当時(10)=が虐待死した事件では、所管エリアの人口が多い児相を中心に職員1人当たりの対応件数が膨大になり、支援の目が行き届きにくい問題も明らかになっている。

職員の大きな個人差 研修にも課題

 児童虐待問題に詳しい千葉大大学院の後藤弘子教授(刑事法)は「(児相には)経験年数が少ないために、ケースの見立てが適切ではないと感じる職員もいて、個人差が大きい。そのため、組織として総合的な判断力が問われている。今後児相が増設されても、法定の研修カリキュラムがないなど課題も多い。市町村の虐待対応との連携強化も同時に必要だ」と指摘する。

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児童相談所の運用に関する課題を指摘する千葉大大学院の後藤弘子教授

 厚生労働省は人口50万人に最低1カ所は児相が必要とする方針を示している。現在、千葉県内には県や千葉市が運営する児相が計8つある。県は2022年度中に児相職員を約260人増員し、2027年度までに新たに2カ所設置する計画。船橋、柏の中核市2市も今後、独自に新設する予定だ。

 今国会では、子どもを親から強制的に引き離す「一時保護」の手続きで、裁判官が司法審査で可否を判断する改正児童福祉法が成立した。不必要な一時保護の防止が期待されるが、後藤教授は「児相側は司法審査を心配して、必要な運用ができなくなるおそれもある。一時保護をする時ではなく、解除する時こそ司法審査が必要だ」と強調する。

国は新資格を創設し対策を進めるが…

 千葉市の児相は今年4月から、管轄地域を東部(中央区、若葉区、緑区)と西部(稲毛区、花見川区、美浜区)に分ける2所運用を始めた。市担当者は「2所化に伴う職員増員で、一つひとつのケースに充てる時間が増えるのはメリット」と話す。ただ、その分、経験の少ない若手職員は増える。

 国は虐待対応や家庭支援に高い専門性を持つ新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー(仮称)」も創設し、2024年度から運用するなどさまざまな対策を進める。県内の児相勤務3年目になる女性職員(27)は「まだまだ不安になることは尽きないが、多くのスタッフで各ケースに関わることで、1人でも多くの子どもに幸せになってもらいたい」。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年7月7日

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