児童虐待に遭った子を守るワンストップセンター「CAC」 普及に尽力する横浜の小児科医・田上幸治さんの思い

米田怜央 (2023年3月20日付 東京新聞朝刊)

田上幸治さん

 増加の一途をたどる児童虐待。医師の田上幸治さん(54)は小児科医として疑いのある事例の診察に携わるかたわら、NPO法人「子ども支援センターつなっぐ」(横浜市中区)の代表理事の立場から、被害に遭った子を守るワンストップセンター「CAC」の普及に力を尽くしている。

CACとは

 正式名称は「Children’s Advocacy Center」。司法機関と児童相談所、医療、教育、保育施設の関係者らが連携して虐待や性暴力を受けた子どもの被害回復を図る場。米国で1985年に発足した。現在は同国で900カ所以上に広まっている。国内ではつなっぐのほか、伊勢原市のNPO法人「チャイルドファーストジャパン」が運営している。

聞き取り、診察、心のケア、司法手続き

 「多機関による虐待対応が整備されていない」。今につながる課題を感じたのは、駆け出しだった20年ほど前。暴行を受けたと判断した患者がいた。しかし、児童相談所に連絡してもすぐに対応はなかった。その間にも、加害側かもしれない親からは「早く退院させろ」と迫られ続けた。

 転機は2015年。虐待や性暴力の被害を受けた子の負担を減らすために警察、検察、児相が一度に体験を聞き取る「協同面接」を実施するよう国が通知した。米国では、3者に医療機関などを加えたCACが数十年前から広がっていた。聞き取り、診察、心のケア、司法手続きを一括で担うのが特徴だ。

 日本でもCACを広げようと、2019年に弁護士らと協力してつなっぐを設立した。勤務先の神奈川県立こども医療センター(横浜市南区)に間借りし、スタッフが被害を聞き取り、医師につないでいる。

学童のボランティアが原点 小児科医に 

 ただ、「まだまだ子どもの話は聞けていない」と自省する。捜査機関や児相と共同の面接は実現できておらず、国内のCACもわずか。関係機関の担当者は頻繁に入れ替わるため、専門性が育ちにくい。性虐待を診察できる医師も少ない。

 そんな現状を変えようと、警察や児相、弁護士らを相手に定期的に勉強会を開き、事故と暴行の違いがどう現れるかを伝えている。他の医療機関と協力して専門医の研修プログラムも作成し、CACの必要性を訴えて回っている。

 「子どもを救う」という原点は、医師を志した大学時代にさかのぼる。学童保育のボランティアに携わる中で、進行性の神経疾患を持つ姉弟に出会った。体調が悪化していく2人を前に「自分にできることは何か」と考え、一念発起した。農学部に所属していたが3年生で退学し、医大に再入学した。

 以来、できることをずっと探している。「小児科医は自分に何が起きたか説明できない子どもたちの代弁者。起きたことを伝え、支えていきたい」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月20日