芸術でつながる 中学生と芸大講師がお寺で展覧会
カメレオンやカブトムシなどずらり
本堂に舞うように展示された14匹のチョウの絵。別の部屋には、カメレオンやカブトムシ、タチウオなどを描いた作品がずらり。丸山さんが展示の総合演出を手がけた。バナナを眺めるマンドリルの作品は、遥一さんの一番のお気に入りという。
遥一さんは、公立中学校の特別支援学級に通う1年生。幼いころから絵を描くのが好きで、同寺の住職で父親の充栄(じゅうえい)さん(46)の依頼で2020年2月から、丸山さんが絵の指導にあたるようになった。遥一さんの絵の第一印象を、丸山さんは「描く線がいきいきとしていて、いいなと思った」と振り返る。その良さをなくさないよう「指導というより、一緒に絵を描き、学び合う姿勢を大切にしてきた」と話す。
大勢の人がいる絵画教室には通えないため、多い時で週3回、丸山さんが寺を訪れ、描く姿を見守り、横で自身も手を動かしながら助言した。寺に咲く草花を題材にするときもあれば、図鑑を見ながら恐竜や動物を描くこともあるという。
丸山さんと遥一さんのコラボ作品も
90センチ幅のロール紙に色鉛筆で下絵を描き、色ペンで塗っていく。題材は、遥一さんの描きたいものを尊重する。指導を始めて数カ月たったある日、丸山さんが描いたツバキのスケッチを、遥一さんが模写して「はるすなお」とサインを入れた。フジやダリアなどの丸山さんの絵を題材にした、こうしたコラボ作品は8点を展示した。
展覧会について、遥一さんは「すごいです」と満面の笑みで語った。「でっかいのを描くのが大変だった」とも。
丸山さんが遥一さんの絵をみるようになって3年。この期間の絵の変化を「のびのびとした線は変わらず、描写が細かくなり、正確性も出てきた」と語る。言葉が少ない遥一さんと時間を共有する中で、学ぶこともあった。「芸術には、障がいの有無や属性、年齢などの垣根を越えて、人の心を揺さぶる力がある。生活の中で芸術は必要不可欠であることを再確認しました」
障がい児と家族が集う場も不定期開催
会場となった勝林寺では、重い障がいがある子とその家族が集う場「お寺でくつろぎば」を不定期で開催している。遥一さんの弟は、脳性まひで寝たきりの医療的ケア児。住職の窪田充栄さんは「家族が思いを共有し、笑顔になる場になれば」と話す。
窪田さん自身、一時は公園で元気に走り回る子や、手をつないで歩く親子を見るのがつらかったという。障がいのある子を育てる家族の話を聞いたり、専門家に相談したりする中で「ちょっとずつ、先の未来を見せてもらえて、気持ちが楽になった」と振り返る。
「くつろぎば」では、音楽を楽しむイベントや、参加者が気軽に話せる機会を設けてきた。遥一さんの絵をみる丸山素直さんも以前、手ぬぐいをいろいろな色でペイントするワークショップの講師を務めた。窪田さんは「不安や悲しみを家族だけで抱え込まず、お寺も思いを分かち合う空間にしたい」と語る。