「#思わず笑っちゃう2022 写真展」で集まった笑顔を寄付に換え、「成育こどもシンクタンク」に託しました

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「#思わず笑っちゃう2022 フォトコンテスト」で集まった「スマイル」の数を金額に換算した分の寄付を、「成育こどもシンクタンク」部長の竹原健二さん(左から4人目)に手渡す今川綾音・東京すくすく編集長(右から2人目)=東京都世田谷区の国立成育医療研究センターで

 「東京すくすく」の開設4周年を記念して開催した「#思わず笑っちゃう2022 フォトコンテスト」では、写真を見て笑った数の分だけ「スマイルボタン」を押してもらう「スマイルアクション」に挑戦しました。昨年11月から12月にかけて東京新聞1階ロビーで開催した「#思わず笑っちゃう2022 写真展」でも、来場者に「スマイルボール」を投じてもらいました。特設サイトや写真展会場で集まった「スマイル」の数を金額に換算した合計8万7185円を、東京すくすくは国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の「成育こどもシンクタンク」に寄付しました。寄付にあたり、昨年4月に設立された同シンクタンクを訪ね、スタッフに今後力を入れていく取り組みや思いを聞きました。

集まった「スマイル」は1万6209個

 写真展の会場で投じられたボールは1228個、すくすくの特設サイトと写真共有アプリ「インスタグラム」で押された「スマイルボタン」の数は計1万4981個でした。スマイル1個につきボールは10円、ボタンは5円に換算しました。

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東京新聞1階ロビーで開催された「#思わず笑っちゃう2022 写真展」

成育こどもシンクタンクに託した理由

 「#思わず笑っちゃう2022フォトコンテスト」に子育て中の写真を応募してくださった方、そして写真を見にサイトや会場を訪れてくださった方。全国のみなさんのご協力で実現した「スマイルアクション」による寄付なので、より多くの子どもや子育てに関わる方たちの笑顔につながる寄付先に、と考えました。「すべてのこどもたちが笑顔になれる社会」を目標として掲げ、子どもたちの心身の課題解決に取り組む成育こどもシンクタンクは、まさにこうしたすくすく編集チームの思いを託せる機関だと感じ、寄付を受け取っていただけるようお願いしました。

成育こどもシンクタンクとは?

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国立成育医療研究センター

 2022年4月に発足した「成育こどもシンクタンク」。2023年度の本格始動に向け、活動の指針を立て、準備を進めてきたシンクタンクのスタッフの皆さんに話を聞きました。

病院で待つだけでなく、出て行こう

―まずは、3児を育てるお父さんでもある、部長の竹原健二さん。なぜシンクタンクを発足させたのかを教えてください。

竹原健二さん(政策科学研究部 部長) 日本の小児医療、周産期医療は世界的に見てもどんどんレベルが高くなっていて、子どもが死亡することは非常に少なくなってきています。医療者の頑張りは上限に近いところに達しています。

 今ある、さまざまな子どもを取り巻く社会の問題・課題は、病院の中だけでは防ぐことができません。地域社会で起こっている問題は、病院で待っているだけでは手遅れになってしまうものもとても多いです。

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「子どもを取り巻く社会の問題や課題は、病院の中だけでは防ぐことができない」と話す竹原健二さん(左)。右は千先園子さん

 成育医療や母子保健の専門家が集まっている当センターとして、いつまでも病院で待っていていいのか。そうではなく、自分たちが打って出て、より広く社会貢献できるようになった方がいいのか。

 当センターの五十嵐隆理事長が「外に出ていく組織をつくろう。大きな旗を立てて、人材を集め、社会に貢献していくために、こどもシンクタンクを持とう」と決心し、発足に至りました。併任・事務方も含めて18人のスタッフが集まりました。

―シンクタンクとして目指すのは?

 ずばり、「すべてのこどもたちが笑顔になれる社会」です。スタッフ全員で話し合って決めました。

 子どもたちが笑顔になるための条件のひとつは、周りにいる親や大人たちもニコニコしていること。子どもが笑顔であるためには、絶対に周りの環境もよい状態でなければなりません。子どもにかかわる周りの大人も含め、広い意味で子どもが笑顔になれる社会を目指します。

 ですので、シンクタンクが関わっていく対象は、決して子どもだけではありません。妊産婦さんやそのパートナーなどの家族、子どもや保護者を支える保健医療・教育・福祉など多領域の専門職も広く含めて考えています。東京すくすくの皆さんが、今回の写真展で目指したものと重なりますね。

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↑↑↑「#思わず笑っちゃう2022 フォトコンテスト」結果発表はこちらから

 写真展のコンセプトでもあった「子育てで大変なとき、それでも子どもの笑顔を見て幸せになる」というのは、全くその通りだと思います。今、「子育て」というと、どうしても負担とかネガティブな印象を持つことが多いものですが、やはり子育てには楽しいことがたくさんあります。私自身も3人子どもがいて、一番下が小学校を卒業したのですが、子育てが一段落してしまうと思うと寂しくなる。あの日々はもう帰ってこないな、と懐かしんでいます。特に小さいうちは大変は大変だけれど、みんなが子育てを楽しめるようになるといいですよね。

データを集めて、医療政策の検証に

―具体的には、どういったことに取り組むのでしょうか。データ基盤の整理を担当する石塚一枝さんは「まずは、何がどこまでわかっているのか把握することから」と言います。

石塚一枝さん(社会医学研究部 研究員) データを集めるにも費用がかかります。既にあるデータと同じものを集めても仕方ないので、まずは、どんなデータが既にあるのかを把握して整理するところからです。政府が出しているデータや、診療する中で集めたデータもたくさんありますが、「子どもたちのデータが欲しい」「お母さんと子どものデータがセットになったものが欲しい」となるとハードルが上がります。「子どもたちのデータとしては、こんなものがあるけれど、こうしたものは足りない」ということを行政に働きかけていくことをしています。

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「新しい医療政策が導入された際は、その有効性を検証することが重要」と小児科診療における例を挙げて説明する大久保祐輔さん(中)

―これから集めるべきデータをまずは洗い出す段階に、今はいるのですね。では、集めたデータをどのように子どものケアにつなげていくのでしょうか。データに基づいて医療政策の検証に取り組む大久保祐輔さんに一例を聞きました。

大久保祐輔さん(社会医学研究部/臨床疫学・ヘルスサービス研究室 室長) 厚生労働省が新しい医療政策を導入する時、新たに診療報酬を設定することがあります。これは、診療報酬という一種のインセンティブによって医療機関や医師の行動を変化させ、医療機関のシステムや診療に反映させることを意図しています。小児科診療における例として、2018年度に導入された「小児抗菌薬適正使用支援(ASP)加算」が挙げられます。この加算が導入された背景には、他の先進国と比較して、日本の小児科外来では広域抗菌薬が処方されることが多く、特に乳幼児期にその傾向が強いことがありました。乳幼児期の感染症はウイルスへの感染が多く、抗菌薬はウイルスに関しては無効であり、耐性化などにもつながるため、近年は問題視されています。

 こうした新しい医療政策が導入された際、その有効性を検証することは非常に重要です。このAPS加算では、医療政策導入後の診療パターンなどを比較し、結果として、加算を導入した診療所では抗菌薬の処方率が20%ほど減少したことが分かりました。また、加算を採用した分の医療コストは増えましたが、入院率は増えておらず、適切に抗菌薬の不使用が選択されていたことも分かり、総合的に有効な医療政策だと言うことがデータから判断できました。

 私の研究室では、日常の診療から蓄積された医療ビッグデータを通して、子どもの医療政策、診療の質、医療の提供体制について研究しています。医療は日々進歩し先端医療は充実してきていますが、医療の裾野にあたる日常の診療で全体的な医療の質を底上げするような研究を推進することで、子どもたちへ提供される医療の質が向上していくと考えています。

子どもの声を聞く「アドボカシー」

―小児への抗菌薬の処方が減ったという結果だけではなく、背景でこういった取り組みがされているというのは、子育て世代にとっても興味深い情報ですね。

竹原さん データやエビデンスを集めて整理し、政策判断に資するということは、われわれ研究者の得意分野。この基盤を整えながら、人材を集めて判断ができる資料をより多く作っていきたい。記述的なものも含めて子どもに関するデータはまだまだ不足しています。例えば、コロナになって子どもたちの状態はどうなったかというのは、非常に大きな関心事ですが、実はコロナ以前の子どもたちの状態がデータ化されていない事柄では比べようがない、という問題がある。ですから、常に子どもの状態を多面的に把握しておける仕組みも必要だと考えています。

 加えて、シンクタンクは、子どもたちの声を大切に聴いていく「アドボカシー」の取り組みを、ひとつの大きな柱として取り組んでいこうと思っています。まずは、病院に来た子どもたちの声を上手に聞き取れるようになろうということで、小児科医に対して、どうアドボカシーを推進していくか、子どもの声を引き出していくのかをテーマにした研修の実施支援も始めています。

 もともと当センターでは、社会医学研究部が事務局を担っていた「コロナ×こども本部」が、コロナ禍による社会のさまざまな変化を子どもたちがどう受け止めているか、といった声を集めて社会に発信する活動をしてきました。引き続き、いろいろな側面で子どもたちの声をくみ上げ、そうしたデータを蓄積していくことが大事です。大きなデータ基盤をつくることも含め、取り組んでいきます。

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―ただ、実際に子どもたちの声を聴き、データやエビデンスを集めても、なかなか社会がうまく回らない、実際の現場で取り入れてもらえない、ということもあるのでは?

竹原さん はい。山ほどあるので、やはり社会実装の支援もしていかなければいけないと考えています。当シンクタンクとして積極的に取り組んでいきたいと思っているのが、自治体への支援です。自治体で事業が始まるかどうかで、子どもやその家族にサービスが届くかどうかが決定的に変わってしまう。いかに、自治体が子どもたちに優しい施策を打ち出してくれるか、そのための支援をしたいと考えています。

社会が求めていることを知りたい

―各自治体の施策に採用してもらうための取り組みが必要なのですね。自治体が母子保健についての行政計画を作るために参考にする資料作りなどを手がける須藤茉衣子さんに聞きました。

須藤茉衣子さん(政策科学研究部 研究員・保育士) 自治体が母子保健計画を作るに当たって、国が「こういう指標を参考にしてください」と設定したものがある一方で、各自治体が独自で設定しているものもあります。国の指針で示された指標の各自治体での採用状況や、そうした独自の指標にどういうものがあるかを調べています。

 全国の自治体の担当者が他の自治体の計画や指標を参考にしたいと考えた場合、それぞれ自前で調べて一からその自治体の計画を作成していくのは本当に時間がもったいないので、自治体の計画作成担当者が参考にできるように、われわれがまとめたものを提示し、共有できると役に立てるのではと考えています。

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―情報の共有という点では、デジタル化を担当する小林徹さんは、一人の子の成育データを長年にわたって把握したり、転居の際に自治体間で健診状況を引き継いだりすることの重要性を指摘しています。

小林徹さん(臨床研究センター/データサイエンス部門 部門長) 厚労省の検討会メンバーとして、例えば3~4カ月健診の記載内容をどういうふうに変更したらいいかとか、どの問診項目を入れたらよいかといった検討をしています。保護者が手帳に書き込んだデータを、関係者間で共有できるような仕組みをつくりたい、転居したときに健診情報を自治体間で共有できるようにしよう、という議論も始まっています。

 「支援が必要な親子ですよ」といった情報を共有できずに、虐待事例に発展してしまったケースもあります。データの共有に関してどうあるべきかということを、今まさに考え始めています。

 ただ、それを社会実装していくために大切なのは、ユーザーであるお父さん・お母さんにとってどんなメリットがあるか、自治体のサービスがどういうふうに向上するのか。データの利活用について合意形成をしていく必要があります。

 シンクタンクは情報をベースにして解釈する点に関しては非常に能力が高いのですが、社会が何を求めているかに対しては、アンテナをきちんと張っていないとニーズをきちんと捉え切れません。こうして子育て世代の声が集まる「東京すくすく」と関わる機会が持てましたので、社会が何を求めているのかということについて共有いただけると、われわれとしてもうれしいです。

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―子育てで悩む親御さん、子育てを支える保育士さんや学校の先生をはじめとした支援者の声が、すくすくにはコメント「すくすくボイス」という形で本当にたくさん寄せられています。悩みも迷いも、工夫して解決した体験も、スマホから書き込んでくれる方がたくさんいます。

 ただ、私たちには解決につなげる道筋が見えなくて、その悩みを受け取ったまま、どうしていいか分からないこともあります。加藤承彦さんは、保護者の困り事や養育者の悩みをすくいとる取り組みをしているそうですね。

加藤承彦さん(社会医学研究部/行動科学研究室 室長) シングルマザーなど社会的に不利な立場にある人たちは、集団で見たときに、そもそも声を上げにくいということがひとつの特徴としてあります。そうした人たちの声をどう拾っていくか。大きいデータが必要になってくるので、政府がやっているような大規模な調査を二次利用しながら、数は少ないけれども極めてリスクが高い集団を見つけて、その人たちがどういう状況にあるのかをつかんでいきます。

産学官民が連携していくために

―子どもと保護者だけではなく、医療従事者や地方自治体とのつながりを強化する取り組みについてお聞きしました。厚労省に出向されていたこともある千先園子さんは、産学官民一体の取り組みという点で、民間との関わりはどのように考えていますか?

千先園子さん(企画調整室 副室長/こころの診療部 医員・小児科専門医・公衆衛生修士) 子どもたちの病気が変わってきています。私も、病院で待っているだけでは救えない子もいると思っています。

 もともと小児医療は、感染症、体の病気の治療・研究に主眼がありましたけれども、医療の進歩でだんだん難しい状況の子どもたちも助けられるようになってきた今、発達障害や、命は助かったけれどもいろいろな支援が必要な子、医療的ケア児、慢性疾患がずっとあって心に問題を抱えている子、虐待やいじめに悩む子といった、体だけでなく心や社会的な視点から取り組むべき課題が増えています。

 こうした子たちは病院の中だけでは治せなくて、例えば保健や福祉、教育、療育など、いろいろな分野と連携しながら手当を考えていかなくてはいけない。私たち病院の中の人たちも、もっと外に出て行って、子どもたちを支える準備を進めていきたい。ということで、どうやったらその連携を深めることができるだろうか、と模索しています。

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 私自身は、「すべてのこどもたち」に届けるには、やはり自治体や、行政の部分と連携しないと届かない部分がいっぱいあるだろうと考えて厚労省に出向していました。厚労省で勤務する中で、官の力の大きさを感じる一方で、産官学民といろいろなステークホルダー、特に、今は民間に先進的で公的役割を担っているようないいサービスもありますので、いろいろな領域の人たちと連携することも大切と感じました。

 たとえば、法律や政策が整い、良い理念が厚労省から通達されても、自治体の方でなかなか実施できない現状など、どうしても最後の社会実装のところがうまくいかないという目詰まりがあります。特に新しい施策に関しては、なかなか既存の公的な仕組みだけでは定着するのが難しいので、民間のスタートアップのように動きが早く、新しいものをどんどん作れるような人たちと連携していくことが大切と考えています。そういった民間組織の応援の仕方も模索しています。

―成育こどもシンクタンクの活動の2つのキーワードは、「子どもにまつわるデータの基盤をつくる」、そして、「子どもを取り巻く多くの専門家や現場とつながって支援・応援していく役割を担う」ということなのですね。

竹原さん 車輪のハブみたいな役割で、子どもの声を聴きながら日本の子どもを取り巻く環境の歯車をいい形で回していければと思っています。

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国立成育医療研究センターの全景

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