大学生がつくった中高生対象の無料塾 練馬の「Aitie」 どんな環境の子にも、人生を切り開く力を

(2023年10月15日付 東京新聞朝刊に加筆)

無料塾「Aitei」で生徒に勉強を教える代表の湯川愛可さん=練馬区で(平野皓士朗撮影)

 どんな環境に置かれた子にも自分の人生を切り開く力を-。そんな思いから2021年夏、当時大学4年生だった湯川愛可(あいか)さん(23)がつくった中高生対象の無料塾が東京都練馬区にある。開塾から2年。塾代が払えない子だけでなく、不登校や人との関わりが必要な子の大切な居場所にもなっている。

きっかけは…15歳の「どうせ私なんて」

 西武池袋線石神井公園駅近くのアパートの一室で、毎週火曜夕、無料塾「Aitie(アイタイ)」が開かれる。湯川さんの名前「愛」とさまざまな人や人生を「結ぶ(tie)」を合わせた名称だ。

 きっかけは大学時代のアルバイト。「どうせ私なんて、あんな親から生まれたから人生うまくいかない」「両親のようになりたくないから結婚はしない」。個別指導塾で担当した児童養護施設の少女(15)=当時=が繰り返す自己否定の言葉に衝撃を受けた。何も言えなかった。「もっと何かできたのでは」ともやもやした気持ちが残り、就職の内定を辞退し無料塾を始めた。

学校の課題に取り組む生徒(右)を指導する湯川さん

 家賃などは福祉医療機構(WAM)からの助成金で賄うが運営は厳しい。「助成は1年ごとなのでいつ切れるか分からない。集まってくる子どもたちのためにも活動を続けられるよう、さまざまな支援を探している」。開塾日以外は個人事業主として仕事を掛け持ちしている。

生徒は30人 学生8人が無償でスタッフ

 当初は1~2人だった生徒は現在、登録者30人に増加。SNSを見て集まった学生8人が無償でスタッフを務める。

 中には片道1時間かけて通ってくるスタッフも。国語の課題を仕上げた高1の女子生徒は「家だとやる気が出ないけど、ここだとはかどる」と笑顔を見せた。別の高1女子生徒も「ここは年齢も近くて分からないことを聞きやすい」。複雑な家庭事情を抱える子も多く、食事や睡眠時間などの生活習慣からアドバイスする。

 スタッフの大和茉彩(まあや)さん(19)は「学校やバイトとは違う刺激があり、私自身も一緒に育っている感覚がある」という。一人一人にしっかり向き合いたいという気持ちから、閉塾後は1~2時間かけて生徒の様子で気になった点や悩みや課題への声掛けの仕方についてスタッフ会議をする。

体験格差どころか「意欲格差」がある

 塾として地域のイベントにも積極的に参加し、いろんな大人や人生に出会えるようにつながりを作っている。「体験格差とよく言われるけれど、厳しい状況下にある子どもは生きる意欲さえ乏しく、意欲格差をまず何とかしなければいけないと感じる。自分がどう生きたいか、どんな大人になりたいかを大切に、家庭環境によって自分らしく生きられない状況を変えたい」と湯川さん。

「Aitei」代表の湯川さん

 同じ地域の不登校の子の居場所「なゆたふらっと」で25年間子どもに関わる佐藤崇さん(58)は「圧倒的に不足する子どもの居場所が増えるのはうれしい。連携して子どもたちを見守りたい」と歓迎している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年10月15日