シングルマザーでも正社員に!無償キャリアアップ講座「未来への扉」
小さな子のいるシングルマザーは育児の負担が大きく、フルタイムで働き続けるのが難しい。結果として多くの人が非正規で働くため、経済的にも困窮しやすい。子どもの貧困解消が求められる中、シングルマザーの就労支援を行う自治体も増えているが、雇用に結びつく支援は少ないのが実態。そんな中、正社員採用を視野に入れたキャリアアップ講座を無償で行う取り組みも始まっている。
美容部員になり月収1.5倍「子どもの将来を考えられるようになった」
午前9時半、東京・新宿の京王百貨店新宿店の化粧品売り場に、美容部員の佐藤ゆうみさん(24)=東京都稲城市在住=が出勤した。未婚の母として長男(5つ)を育てている。
前の職場は自宅近くのカー用品店。週6日、パートで働いた。季節商品の売り場を担当したため、繁閑で月収は手取り9万~14万円と波があった。「その日を回すだけで精いっぱい。貯蓄もできない。正社員になりたかったけれど、新しいことを始める余裕はなかった」
そんな時、母親から受講を薦められたのが、シングルマザーキャリア支援プログラム「未来への扉」だった。化粧品会社日本ロレアル(本社・東京都新宿区)と、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ(事務局・千代田区)が主催するプログラム。ビジネスマナーや簡単なパソコン操作などを学ぶ。託児室も利用できる。隔週の日曜日開講で、佐藤さんは働きながら受講した。
5カ月のプログラムを今年2月に修了。6月に同社の美容部員として採用された。現在の身分は契約社員だが、順調にいけば来年4月には正式に正社員採用されるという。
百貨店では週5日の8時間労働。労働時間が増え、母親に保育園の迎えなどを頼りながらの日々だが、手取りの月収も約1.5倍に増えた。「収入も安定。子どもの将来を考えられるようになり、貯蓄も始めた」
母子家庭の平均収入は父子家庭の半分
厚生労働省によると、2015年時点の「子どもの貧困率」は13.9%で、子どもの7人に1人が貧困状態にある。ひとり親世帯に限ると、50.8%が貧困状態だ。特に母子家庭の平均年間就労収入は181万円(2010年)と、父子家庭の約半分にとどまる。
シングルマザーは結婚や妊娠・出産を機に仕事を変えたり、離婚後に初めて外で働いたりする人も多い。育児負担が大きいと、フルタイム正社員より非正規を選びがち。時間的、金銭的な問題からキャリアアップに必要な技術を習得する機会からも遠ざかる。
「未来への扉」は、講座を主催する企業への就職につながるプログラム。企業が自社での採用に直結するスキルを教える内容だ。第1期には、佐藤さんを含め28人が参加。マナーや身だしなみ、メールや文書作成などのビジネススキルを学んだ。
企業がNPOと連携「子どもの貧困解消に貢献したい」
受講生は「周囲の助けや行政や地域の子育て支援を利用し、フルタイムで働く環境を整えるように」と求められる。講座を主催した日本ロレアルの井村牧副社長は「子どもの貧困解消に企業として貢献したいと始めた」と話す。しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長は「講座と連携して正社員になるチャンスがある点が従来の支援と大きく違う」と指摘している。
4月に開講した第2期は東京都も後援した。現在10月開講の第3期の受講者を募集している。申し込み締め切りは9月末。問い合わせは、しんぐるまざあず・ふぉーらむ=電03(3239)6582=へ。