公立中の部活の地域移行 先行事例で見えた課題は金銭負担と人材確保
他校の子も参加 高い指導レベル
土曜日の午後。白岡市立南中学の体育館で、音楽に合わせ切れのあるダンスを披露する「先生」を前に、生徒たちが振り付けの練習に励んでいた。一見、普通のダンス部だが、生徒たちが所属する学校はバラバラ。指導するKEE(ケイ)さん(29)はプロダンサーだ。
白岡市は埼玉県の実践研究として2021年11月から、一部の中学の部活で土日と祝日の活動を地域移行し、スポーツ団体のメンバーや大学生らに指導を委ねた。背景には、少子化が進み小規模校で野球部やサッカー部が廃部するなど、学校単位での部活の維持が厳しくなっている現状がある。
昨年11月には学校の垣根を越えた合同部活も始め、1校ではできなかったダンス部も誕生。ダンス部の白岡中1年、小川咲恵(さえ)さん(13)は「ダンスをやりたかったからうれしい。他校の子とも、振り付けを教え合ったりして仲良くしたい」と笑顔を見せた。白岡市の担当者は「指導のレベルも教員より高い」と利点を挙げる。
補助金なければ月4500円の負担
しかし、本格的な地域移行には金銭面がネックだ。地域移行の人材派遣や運営は企業に委託している。実践研究段階での費用は県などの補助金を充て、生徒の負担はゼロだが、補助金がない状態で土日祝の地域移行を全面実施すると、市の試算では「生徒1人あたり月額4500~5000円の負担になる」と出た。生徒や保護者からは「高額だと厳しい」との声も聞かれるといい、市の担当者は「生徒の負担は1500円が限度では。補助がないと非常に難しい」と語る。
同じく本年度に実践研究を行った戸田市では、外部指導者の確保が難題だ。生徒が多く、公立中6校に運動部だけで計71あり、市の担当者は「全ての活動で指導者を確保するめどは立たない」と頭を抱える。
埼玉県は昨年11月、さいたま市を除く県内市町村に地域移行のアンケートを実施。運動部の指導を依頼できるスポーツ団体などを「想定できる」と答えた自治体はゼロだった。約7割は「一部の競技において想定できる」としたが、小規模自治体を中心に約2割が「想定できない」と答えた。文化部についても、指導者の確保などを不安視する声が上がっているという。
部活動と新たな地域クラブ活動の総合ガイドラインとは
スポーツ庁と文化庁が昨年12月に公表。地域連携・移行をまずは休日の中学部活動から進め、平日にも広げるとしている。当初案では、2023~2025年度を休日の部活の移行の達成目標としたが、ガイドラインでは目標でなく「改革推進期間」と表現を弱めた。都道府県や市町村には方針や移行スケジュールを周知するよう求め、各種大会に対しても、地域クラブの参加や教員以外の人の引率を認めるなどの見直しを促している。
「教員を増やす方がいい」「早急に移行を」意見は二分
国の指針は後退 実現へ遠い道のり
大学教授や現役教員、保護者らでつくる「日本部活動学会」(岐阜市)の会長を務める関西大の神谷拓教授(スポーツ教育学)は「夕方5時以降に生徒らの面倒を見る余裕がある(地域の)人は少ない。結局は主に教員が指導する形になるのでは」と懸念。一律で地域移行するより、教員数を増やす方が負担軽減になると指摘する。
一方、元教員で部活のあり方などを考える「日本教育実践研究所」(東京都港区)の長沼豊所長は昨年12月、白岡市で開かれた講演会で、早急に移行が必要と訴えた。指導人材不足については「部活の指導をぜひやりたいという先生も半分ほどいる」とし、そうした教員に「10年間は兼職兼業で地域のクラブで指導してもらい、それをお手本として教え子が将来、仕事しながら指導者をしようと思える流れができるのが望ましい」と話した。
国は昨年12月、部活の移行などについてガイドラインを公表。1カ月前の案では2023~2025年度の3年間を土日祝の地域移行を達成する目標年度としていたのが、ガイドラインでは「改革推進期間」に後退した。スポーツ庁の担当者は「条件整備や、スポーツ団体と学校、保護者の合意を3年間で実現するのは難しいとの声が自治体から上がったため」と理由を語る。
埼玉県は今後、移行の指針を作成するとしている。保健体育課の担当者は「厳しい自治体には移行プロセスの提示や財政支援を検討したい」と語る。
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