公立中の部活の地域移行 先行事例で見えた課題は金銭負担と人材確保

杉原雄介 (2023年3月5日付 東京新聞朝刊)

KEEさん(右)の指導で練習に励む合同ダンス部員たち。地域移行により、既存の部活ではできない取り組みが生まれている=白岡市立南中学校で

 公立中学校が担ってきた部活の運営を、地域のスポーツクラブや民間企業などに委ねる「地域移行」を、国が新年度から進めようとしている。子どもが減る中での活動維持や、教員の働き方改革などを理由に掲げるが、埼玉県内の先行事例では多くの課題が浮き彫りになっている。

他校の子も参加 高い指導レベル

 土曜日の午後。白岡市立南中学の体育館で、音楽に合わせ切れのあるダンスを披露する「先生」を前に、生徒たちが振り付けの練習に励んでいた。一見、普通のダンス部だが、生徒たちが所属する学校はバラバラ。指導するKEE(ケイ)さん(29)はプロダンサーだ。

 白岡市は埼玉県の実践研究として2021年11月から、一部の中学の部活で土日と祝日の活動を地域移行し、スポーツ団体のメンバーや大学生らに指導を委ねた。背景には、少子化が進み小規模校で野球部やサッカー部が廃部するなど、学校単位での部活の維持が厳しくなっている現状がある。

 昨年11月には学校の垣根を越えた合同部活も始め、1校ではできなかったダンス部も誕生。ダンス部の白岡中1年、小川咲恵(さえ)さん(13)は「ダンスをやりたかったからうれしい。他校の子とも、振り付けを教え合ったりして仲良くしたい」と笑顔を見せた。白岡市の担当者は「指導のレベルも教員より高い」と利点を挙げる。

補助金なければ月4500円の負担

 しかし、本格的な地域移行には金銭面がネックだ。地域移行の人材派遣や運営は企業に委託している。実践研究段階での費用は県などの補助金を充て、生徒の負担はゼロだが、補助金がない状態で土日祝の地域移行を全面実施すると、市の試算では「生徒1人あたり月額4500~5000円の負担になる」と出た。生徒や保護者からは「高額だと厳しい」との声も聞かれるといい、市の担当者は「生徒の負担は1500円が限度では。補助がないと非常に難しい」と語る。

 同じく本年度に実践研究を行った戸田市では、外部指導者の確保が難題だ。生徒が多く、公立中6校に運動部だけで計71あり、市の担当者は「全ての活動で指導者を確保するめどは立たない」と頭を抱える。

 埼玉県は昨年11月、さいたま市を除く県内市町村に地域移行のアンケートを実施。運動部の指導を依頼できるスポーツ団体などを「想定できる」と答えた自治体はゼロだった。約7割は「一部の競技において想定できる」としたが、小規模自治体を中心に約2割が「想定できない」と答えた。文化部についても、指導者の確保などを不安視する声が上がっているという。

部活動と新たな地域クラブ活動の総合ガイドラインとは

 スポーツ庁と文化庁が昨年12月に公表。地域連携・移行をまずは休日の中学部活動から進め、平日にも広げるとしている。当初案では、2023~2025年度を休日の部活の移行の達成目標としたが、ガイドラインでは目標でなく「改革推進期間」と表現を弱めた。都道府県や市町村には方針や移行スケジュールを周知するよう求め、各種大会に対しても、地域クラブの参加や教員以外の人の引率を認めるなどの見直しを促している。

「教員を増やす方がいい」「早急に移行を」意見は二分

 部活の地域移行は、教員負担を減らす面から考えると待ったなしだ。県教委が2021年6~7月の4週間に、公立中学校教員の時間外勤務時間を調査したところ、部活を担当しない教員の平均は4週間で約41時間40分だったが、部活顧問教員は約70時間と跳ね上がった。一方で課題も多く、このまま進めるべきか、教員のかかわる団体でも考え方は分かれる。

国の指針は後退 実現へ遠い道のり

 大学教授や現役教員、保護者らでつくる「日本部活動学会」(岐阜市)の会長を務める関西大の神谷拓教授(スポーツ教育学)は「夕方5時以降に生徒らの面倒を見る余裕がある(地域の)人は少ない。結局は主に教員が指導する形になるのでは」と懸念。一律で地域移行するより、教員数を増やす方が負担軽減になると指摘する。

 一方、元教員で部活のあり方などを考える「日本教育実践研究所」(東京都港区)の長沼豊所長は昨年12月、白岡市で開かれた講演会で、早急に移行が必要と訴えた。指導人材不足については「部活の指導をぜひやりたいという先生も半分ほどいる」とし、そうした教員に「10年間は兼職兼業で地域のクラブで指導してもらい、それをお手本として教え子が将来、仕事しながら指導者をしようと思える流れができるのが望ましい」と話した。

 国は昨年12月、部活の移行などについてガイドラインを公表。1カ月前の案では2023~2025年度の3年間を土日祝の地域移行を達成する目標年度としていたのが、ガイドラインでは「改革推進期間」に後退した。スポーツ庁の担当者は「条件整備や、スポーツ団体と学校、保護者の合意を3年間で実現するのは難しいとの声が自治体から上がったため」と理由を語る。

 埼玉県は今後、移行の指針を作成するとしている。保健体育課の担当者は「厳しい自治体には移行プロセスの提示や財政支援を検討したい」と語る。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月5日

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  • キガネムシ says:

    本件に関して、是非中体連や中文連の責任者の見解を聞いてみたい。中学が変われば高校も変わるような気がするので。「東京すくすく」の担当者はインタビューして取り上げて欲しい。

    キガネムシ 男性 50代
  • キガネムシ says:

    部活動顧問を任されている教員には「やりたくない」人と「部活動指導こそ生き甲斐」な人に大別される。
    現時点における折衷案として部活動指導専門の教員と教科指導専門の教員というように棲み分けたら如何か。担当者は採用試験の面接時に質問したら良かろう。給与のこととか面倒は多そうであるが。いずれにしても人手不足解消が喫緊の課題である。

    キガネムシ 男性 50代
  • yh says:

    クラブには保護者に持ち回り当番というのがあり参加できない家庭もある。そういう家庭の子供はクラブを辞めなければならない。クラブに残りたい子供を見ているとやりきれない。昔よかった。

    yh 男性 70代以上

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