中学教員だった夫を亡くした妻の思い 過労死から16年、変わらぬ人手不足「先生が健康でいられる現場に」
過労死ラインの残業 中学教諭の36.6%
文部科学省が4月に公表した2022年度の教員勤務実態調査(速報値)によると、残業時間上限の月45時間を超える教諭は小学校で64.5%、中学校で77.1%を占めた。さらに過労死ラインの月80時間超の残業に相当した教諭は中学校で36.6%に上った。祥子さんは「夫が亡くなって16年がたつのに、問題の根本は変わっていないのは、さみしい」と肩を落とす。
義男さんは1990年に中学の保健体育の先生として働き始め、2007年、横浜市立あざみ野中(青葉区)に転勤した。直後に生徒指導専任となり、他に17の業務を担うなど多忙をきわめた。前任校から毎朝7時には出勤し、午後9時ごろに帰宅後も残業する日々。修学旅行の引率で不眠不休となったことが引き金となり、頭痛で行った病院で倒れ、くも膜下出血で亡くなった。
「『やる人がいないからしょうがない』とずっと言っていた。体力もあり、明るく、はっきり意見を言う人。そういう人であっても過労死をしてしまう」
ゆとりある働き方のできる業務量と人数に
教員の「定額働かせ放題」の温床として問題視されてきたのが、1971年制定の教職員給与特別法(給特法)だ。月給の4%を調整額として上乗せする代わりに、残業代を原則支給しないと定める。
自民の特命委員会は5月10日、調整額を現行の4%から10%以上に増額することを柱にした提言をまとめた。永岡桂子文科相は同22日、給特法のあり方を含む教員の処遇改善、働き方改革の検討を中央教育審議会(中教審)に諮問した。祥子さんは「教員がゆとりある働き方ができるのが本質。時間外が45時間までと決まっているので、それを守れる業務量と人の数にするべきで、そこにもっと重きを置いてほしい」と指摘する。
教員の働き方問題への理解は広まっていると感じる。義男さんの死が報じられた当初は「税金で給料をもらっているのだから」と心無い言葉も向けられたが、「ひどい」「先生は残業代出ないの」という反応に変わっていった。現場の先生も声を上げるようになった。
祥子さんは教員を目指す大学生などに、各地で啓発の授業をしている。つらい経験を繰り返し語ることは心に負担がかかる。それでも「夫を失って本当につらい思いをした。この死を生かしたいという思いで動いてきた。過労死は防げるはず」と信じる。
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