1カ月乳児が揺さぶられ死亡 26歳父親を逮捕 警察は虐待情報を放置していた

土屋晴康、曽田晋太郎 (2019年1月11日付 東京新聞朝刊)
 2016年12月に生後1カ月だった長男の頭を揺さぶり、半年後に死亡させたとして、神奈川県警は10日、傷害致死の疑いで、同県厚木市に住む配送業の男(26)を逮捕した。長男が搬送された病院から連絡を受けた厚木児童相談所は虐待の恐れがあるとして長男を一時保護し、厚木署にも情報を知らせたが、署は両親に事情を聴かず、事実上放置していた。県警は「誤った対応だった」と認めている。

2016年12月、自宅でぐったり…半年後に死亡

 逮捕容疑は16年12月中旬、自宅アパートで長男の頭を揺さぶるなどして外傷性脳損傷による脳機能障害を負わせ、17年6月13日に死亡させたとされる。

 男は16年12月17日夜、長男がぐったりしたため市内の病院に搬送。長男は翌日、横浜市の病院に転院した。17年3月3日に退院した後は、自宅に戻されていた。

「乳幼児揺さぶられ症候群」で脳損傷の疑い

 県警によると、男は「強く揺さぶって死亡させてしまったことは間違いないが、殺意を持ってやったわけではない」と供述。逮捕前の聴取では、「息をしていなかったので揺さぶった」と説明していたという。

 司法解剖などの結果、脳が損傷する「乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)」の疑いがあることが判明。男の行為が死亡につながったと断定し、逮捕に踏み切った。

 県警は、当時18歳だった妻も関与した疑いがあるとみて事情を聴いており、身元の特定につながる可能性があるとして男の名前などを公表していない。

乳幼児揺さぶられ症候群とは

 乳幼児が激しく揺さぶられた時に脳が頭蓋骨にぶつかり損傷することで起こる。首のすわっていない乳幼児は特に危険性が高い。脳性まひや視力障害、知的障害などの後遺症を負ったり、最悪の場合は死に至るケースもある。子どもが泣きやまない時などに親や保育者などがイライラしたり、腹を立てて赤ちゃんを激しく揺さぶってしまうケースが多く、重篤な児童虐待とされる。

神奈川県警、児童相談所から情報得たのに…繰り返される不適切対応

 児童相談所から情報を得ながら両親に接触すらしないという、ずさんな県警の対応ぶりが明らかになった。厚木市内では5年前にも、男児が衰弱死した事件が発覚、児相と県警の連携不足が問題視されていた。捜査の在り方を巡って今後、議論を呼びそうだ。

 県警によると、厚木署が厚木児相から虐待の恐れがあると連絡を受けたのは2016年12月19日。署は、男が児相に「わざとやったわけではない」と説明したことから「立件できるか難しい事案」と判断し、捜査をしなかった。県警の内規では、虐待が疑われる事案を把握した場合は本部に報告することになっているが、それも怠っていた。

 10日に会見した県警人身安全対策課の有原馨課長代理は「両親の事情聴取などを行い事件化の可否を検討するなど踏み込んだ対応をするべきだった」と話した。

 厚木児相の加藤昌代所長らも会見し、当時の経緯を説明した。長男が退院した後の17年3月と4月に1度ずつ自宅を訪問し、母親に話を聴いたものの、男は不在で会えなかった。それ以降は訪問せず、6月5日に男から「転居する」と電話があり、「状況が落ち着いたら連絡してほしい」と伝えただけで、引っ越し先などは尋ねていなかった。

 加藤所長は、対応は適切だったとの認識を示しながら「父親との接触は必要だった」と語った。

 厚木市内では14年5月にアパートで男児の白骨遺体が見つかり、約7年前に男児=当時(5つ)=を衰弱死させたとして父親が殺人などの罪で起訴された。この事件では、児相が04年に男児を迷子として一時保護したことがあり、その後男児が学校に通っていないことを把握したが、県警に相談していなかった。