「男女で育休取得なら手取り10割」は少子化に効く? 本当に必要なのは「男性の長時間労働を改め、夫婦で育児に関わること」

(2023年3月27日付 東京新聞朝刊)

岸田政権の方針 識者はどう見る

 岸田政権は今月末に少子化対策のたたき台をまとめるのに先立ち、産後の一定期間に男女が育児休業を取得した場合の給付率を「手取り10割」に引き上げる方針を打ち出した。男性の育休取得を促し、家事・育児の女性への偏りを是正したい考えだ。ただ、子育てにかかわる負担を巡る男女間の不均衡を抜本的に解消する効果は望めない。識者は「男性の長時間労働を改めなければ出生率は上がらない」と指摘する。

妻の気づき「夫は余裕がなかったんだ」

 「家事・育児が嫌だったのではなく、会社に拘束されるストレスで余裕がなかったんだな」

 神奈川県鎌倉市で7歳と5歳の子を育てる吉田和子さん(43)は、夫の変化を見てそう感じた。

 3年前に夫婦とも勤めていた会社を辞め、東京都内から一家で引っ越した。同時に自営業を始め、柔軟な働き方になった夫は、家事も育児も率先してこなすようになった。今では一緒に働く吉田さんが多忙な時、朝の子どもの準備を引き受ける。

 会社勤めに比べて経済的な不安はあると、吉田さんは話す。それでも、夫婦で育児に関われる環境に満足しているという。

男性の家事・育児時間と「2人目」の関係

 2021年度の育休取得率は女性が85.1%、男性が13.97%(厚生労働省調べ)と大きな差がある。2000以上の企業や省庁などの働き方改革を支援してきたコンサルタント会社「ワーク・ライフバランス」社長の小室淑恵さんは「少子化対策で大事なのは男性の働き方を変え、家庭での育児の手を2本にすること」と説く。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、他の先進国は女性の就業率が上がるほど出生率も上がっている。一方、日本は女性の就業率が上がったのに出生率は低迷。小室さんはその原因を、男性の働き方改革に手を付けなかったことで、仕事と家事・育児の二重の負担が女性にのしかかったからだと分析する。

 男性の家事・育児時間と子どもの数は相関関係がみられる。2015年の厚労省調査では、子どもがいる夫婦のうち、休日の夫の家事・育児時間が「なし」で2人目以降が生まれたのは10%。時間が多いほど2人目以降がいる割合は増え、「6時間以上」では90%近くに上った。

「勤務間インターバル」義務化すべき

 岸田文雄首相が17日の記者会見で表明した育児休業給付の拡充は少子化対策の三本柱の一つである「働き方改革」の具体策だが、女性の負担軽減につながるのは、男性が取得した期間中に限られる。男性の家事・育児参加を一層進めるための制度改革として、小室さんが提唱するのが、終業と始業の間に一定の時間を設ける「勤務間インターバル」の義務化や、時間外賃金の割増率引き上げだ。

 勤務間インターバルは、欧州連合(EU)が加盟国企業に11時間の確保を義務づけている。日本では2018年成立の働き方改革関連法に盛り込まれたが、経団連が義務化に反対したこともあり、強制力のない努力義務になった。2022年時点の導入企業はわずか5.8%にとどまる。

 時間外割増率もノルウェーの40%に対し、日本は25%と低水準だ。企業の負担増に直結するため、引き上げを目指せば経済界の反発も予想されるが、小室さんは「働き方改革がなければ、育休制度を充実させても、本質である家事・育児分担(の見直し)や出生率向上につながらない」と強調する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月27日