〈坂本美雨さんの子育て日記〉45・こんな私でも…? 娘からの言葉に「それに見合う人間になりたい」と誓った日
舞台に出演する日々の中で
いったいなんのご褒美に、こんな優しさを受けとっているのかと不安になるほど、優しくされることがある。もしかして私、子ども時代にものすごく頑張ったのかもしれない、気づかないうちに。もしそうだとしたら生きてて本当によかったし、今の自分だけではなくて過去もまるごと抱きしめられるようなことってあるのだなとびっくりする。
今、家の窓辺には赤紫色のダリア、ピンクのミニバラとミントの花が飾られている。今月、私は舞台「星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙」に出演しており、現在は神奈川公演を終え、旅公演が控えている。舞台に携わるのは娘が生まれてからは初めて。育児との両立は体力的にも時間的にも生活が変わったし、きっと娘には我慢をさせていたと思う。ある朝、娘を預けて劇場に向かう時、すこしグズった娘にマネージャーが「お母さんにあげるお花を買いに行こうか」とささやいてくれた。すると、パッと顔が明るくなり、「じゃーねー!」とあっさりお別れをして走って行った。
真っすぐさが教えてくれた
その日お迎えに行くと、娘は自分で選んでくれたダリアのブーケを渡してくれた。「なんでダリアにしたの?」と聞くと「ママに似合うから」。いつもの、彼女がくれる甘い言葉だったが、その日は初めての衝撃が走った。
もしかして、こんな私でも、彼女はまだ私を見上げ、憧れてくれているのか…? ダリアがぴったりだと思うくらい、彼女にとってはすてきな存在に見えているのか…。私は自分をそんなふうに考えたことがなかった。もちろん、ママだから、ずっと一緒にいるから刷り込み的に好きでいてくれているとは思っていたけれど、もう少女となった彼女にとって私はそれ以上の、一番近い女性であり、日々見つめ、意識する存在なのだった。
その時、「それに見合う人間になりたい。真実の姿は晒(さら)しながらも、彼女の憧れとしてふさわしく居続けたい」と恥ずかしながら初めて思った。よく子どもが生まれたばかりの人が「この子に恥じない立派な親になる」と口にするのを、そういうものか、と思いながら心底ピンとはきていなかったが、娘の真っすぐさが胸に刺さり、また教えてくれた。いつもとは違うステージに立つ母親を見て、彼女の中からなにかしてあげたいという気持ちがあふれていた。ママはすてきだよ、と彼女が精いっぱい伝えてくれたダリアを永遠に窓辺に飾っておきたい。 (ミュージシャン)
コメント