〈坂本美雨さんの子育て日記〉51・日々、子どもに許されて
うっかりカジさんと優しい息子さん
長年私が担当しているラジオ番組の前プロデューサー、カジさんは別の番組も受け持ちながら、中学生の男の子のお母さんでもある、多忙な女性だ。聡明(そうめい)でバリバリ仕事ができる一方で、とんでもないドジをやらかすウッカリさんである。
アーティスト名を間違えたままマネジャーさんとしばらく話し続ける、LINEを送るグループを間違って送信する、エレベーターで一緒になった大物アーティストを知り合いと勘違いし、「おー! ひさしぶりー!」と声をかけてしまう…等々、彼女の穴があったら入りたいエピソードは「1日、1カジ」と呼んで私たちスタッフの大好物で、最近はなんかないの?と催促してしまう。そんなウッカリさんはもちろん家庭でも発揮されているらしく、息子さんはそんなお母さんを見ながら優しい青年に育っている。
先日、息子さんのお弁当を大好きな冷やしうどんにしてあげよう、と、ランチジャーにうどんを入れ、錦糸卵やネギを入れて、よし完璧!と息子を送り出したカジさん。職場に着いてから、「汁!!」とハッとしたらしい。食べるときにうどんにかける汁のパックをお弁当袋に入れ忘れた。だが、仕事も始まっておりなす術(すべ)がなく。夕方家に帰ると、息子さんが先に申し訳なさそうに「ママごめんね」と謝ってきたそうだ。「…今日ちょっと、お弁当食べる時間なかったんだ」と。ランチジャーの中には見事に団子状になったうどんの塊(卵だけ食べてあったそう)。必死に謝ると、「ううん、こちらこそごめんね」と息子さん。
うちの娘も、わたしを笑ってくれる
その話を聞いてゲラゲラ笑いながらも、日頃お母さんを一生懸命フォローしようとしている息子さんの優しさと思慮深さに、思わず涙がこみあげてしまった。自宅でリモートワークすることも多い彼女の忙しさや仕事の意義、集中すると他のことが抜け落ちてしまうところ。日頃しっかりお母さんを見ているのだろうな…。まさか「1カジ」に泣かされるとは。
子どもたちは本当に親をよく見ていて、一生懸命なことも欠けていることも、受け入れようとしてくれる。うちの娘もそうだ。いつも忘れ物するし、パンを真っ黒に焦がすわたしを気遣い、心配し、笑ってくれる。日々、子に許されて生きているのだなぁ。ところでカジさん、その次の日も今度は完璧な冷やしうどんにしてあげようと、お汁もしっかり添付して送り出した後、気づいたそうだ。お箸を入れ忘れたことに…。 (ミュージシャン)
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