〈スポーツ虐待〉暴力が日常だった高校アメフット部 頭蓋骨がずれ、被害を訴えたらさらに報復が… 抑圧的な土壌を変えるには?
指導者から生徒、上級生から下級生
「ミスをした時はたたかれたし、暴言など高圧的な指導が日常的だった」。東京都内の高校を今春卒業した萱原(かやはら)康介さん(18)が高校で所属したアメリカンフットボール部では、指導者から生徒へ、先輩から後輩への暴力が恒常的にあった。
3歳から中学校までサッカー一筋。ただ「全国大会に一度は出たい」との夢をかなえるため、高校では全国常連のアメフット部に入った。相次ぐ暴力にも「強豪チームはこんな感じなんだろう」と疑問を持たなかった。「大学進学にも影響を持つ指導者に逆らえない雰囲気もあった」
自分もまひ「グラウンドで見返せば」
1年生から試合に出ていた萱原さんに、「生意気」と先輩も暴力をエスカレートさせていった。馬乗りで殴られたり、脳天に足を打ち下ろされたり。「暴力は当たり前、グラウンドで見返せばいいと思っていた。今思えば、自分もまひしていたし、スポーツの本質を理解していなかった」
高校1年の秋ごろ、ひどい頭痛で受診すると、頭蓋骨の一部がずれていた。医師から「練習だけが原因とは考えられない」と伝えられ、初めて暴力被害を両親に打ち明けた。部や学校にも訴えたが、先輩には筒抜け。報復の暴力を受け、そのまま退部を余儀なくされた。「暴力がきっかけで、やりたかったスポーツをやめていく子がいることをもっと知ってほしい」
381人への調査で、19%が暴力被害
10代の子どもたちが部活などで受けているスポーツ虐待の実態は、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が今春実施したオンラインアンケートでも明らかになった。25歳未満の381人のうち19%が何らかの暴力を受けていた。年齢や性別を問わず幅広い層の子どもたちが被害に遭った。
加害者で最も多いのは指導者だが、上級生の暴力も多かった。HRW日本代表の土井香苗さんは「『子どもへの暴力は許されない』という社会規範にスポーツ界は乗り遅れていることが明らかになった」と指摘する。
「子どものスポーツ指導の世界で虐待がなくならないのは、社会全体が激しい競争にさらされているから」。2018年にユニセフが公表した「子どもの権利とスポーツの原則」の起草に中心的役割を果たした山崎卓也弁護士はこう指摘する。「子どもに過度な期待をかける親の意識を変える必要もある。子どものスポーツの場を変えていくことは、大人がどういう社会を望むのかということにほかならない」
[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年9月22日]
※後編は26日に掲載します。スポーツ指導の場で芽生えている変化や、虐待をなくすために必要な視点を伝えます。
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