「3+1=5」にマルをつけた数学者が語る、子どもの算数の見守り方 間違いを否定せず、考えた道筋を共有しよう
「5だね」…新たな一歩を大切にしたくて
「3+1=5」。子どもが足し算の問題にこう答えたら、学校の先生も保護者も、普通は「×」を付けるだろう。
ところが、「○」にした数学者がいる。神戸大大学院理学研究科教授の谷口隆(たかし)さん(44)=代数学=だ。当時3~4歳で、足し算を覚えて間もなかった娘に口頭で尋ね、「5」という答えを「そうだね、5だね」と○にした。正解の「4」も教えなかった。
谷口さんは「答えは一応3より大きいし、また7や8のような見当外れの数でもない。何より、それまで指を使って足し算をしていた娘が、初めて指を使わずに導いた答えだった」と振り返る。「いずれ足し算はできるようになる。指を使わずに足すという新たな一歩を大切にしたかった」
誤答にも、部分的には正しい推論があった
現在は小学生の長女、幼稚園児の長男の2児の親でもある谷口さん。算数に取り組む2人の様子を観察し、誤答にも常に理由があり、部分的には正しい推論をしていることに驚いた。こうした発見を、近著「子どもの算数、なんでそうなる?」(岩波書店)でも紹介している。
子どもは考えた答えを誤りだと否定され、正解だけを押しつけられるうち、自分で考える意欲を失っていくという。谷口さんは「ある時点で誤った認識をしていても、月日がたち、学びが深まるにつれて、自ら誤りに気付いて修正する力が子どもにはある」と話す。
無理に正解に導かず、どう考えたかを聞く
とはいえ、誤答は気になるし、テストで×が付いていたら解き直させたくなるのが親心。どのように声を掛けたらいいのか。谷口さんは「どう考えてその答えを出したのか、正解にたどり着けずに困っているかどうか、の2点に注目して」と助言する。
無理に正解に導こうとせず、まずは子どもの話をよく聞く。子どもの考えを想像で決めつけず、なぜそう考えたか教えてもらい、納得できる部分は共感して、感心したり面白いと思ったりしたら、子どもにそう伝える。「誤答でもよく聞くと『へ~、そんなことを考えていたのか』と思わされることは結構多いですよ」と言う。
「行き詰まって困っているようなら、ヒントを教えて困難を取り除いてあげればいい。話を聞いてほしそうだったら聞き役になる」。子どもが必要とするサポートは個々のケースで異なる。どのタイミングで、どう働き掛けるのが一番効果的かを考えながら、子どもの様子を見守り、助け舟を出そう。
今だけを見て「苦手」と決めつけないで
長い目で見て算数の力をつける上で大事なのは、自分の頭で考える姿勢だという。谷口さんは「自分で考えてたどり着いた答えは、正誤にかかわらずすてきなもの。正解を教えたり、誤りを訂正したりするのに躍起になるのではなく、子どもが考えた道筋を一緒に楽しんで」と訴える。
「現時点だけを見て『この子は算数が苦手』と決めつけたり、口にしたりするのは避けてほしい」とも。心身の発達と同じように、算数の学び方や進度には個人差がある。「その子が自分なりのペースと関心の持ち方で学んでいるのであれば、焦らなくて大丈夫。大事なのは、一人一人が自分に合った形で算数を学んでいくこと。それこそが本人にとって糧となる」と話す。
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