障害ある生徒も「目指せ甲子園」 各地の特別支援学校の選手が集まり、練習会や実戦の場
目標は、全国につながる地方大会への参加
「いいぞ」「ナイススイング」。穏やかな日差しが降り注いだグラウンドに、声が響いた。今月5日、千葉県柏市内の野球場。全国から集まった特別支援学校の生徒たちは練習試合に臨み、はつらつとプレーした。プロジェクトのチームとして初の「実戦」だった。
相手は同市を拠点にする中学生の硬式野球チーム「千葉沼南ヤング」。昨秋に合同練習した縁があり、試合は5回まで行い、2-11だった。点差は開いたが、先発した京都・白河総合支援学校の村田敦投手(3年)は5つの球種を習得し、フォークも織り交ぜた投球で三振も奪った。「緊張もしたが、ワクワクしていた。自分が思っている球は投げられた」。今春、学校を卒業。各地から集まった仲間には「(硬式の大会に)出られるなら、出てもらいたい」とエールを送った。
教員が発起 月1回、25人が集まり練習
プロジェクトを主宰するのは、東京都立青鳥(せいちょう)特別支援学校主任教諭の久保田浩司さん(56)。障害者教育の現場一筋、赴任先の学校でソフトボール指導に17年携わった。元球児で高校野球の指導を夢見た過去もあり、「子どもたちの可能性をもっと広げたい。全国に声をかけてみようと思った」と昨年3月にプロジェクトを立ち上げた。
1カ月に1度のペースを目標にして集まり、コロナ禍でグラウンドの使用が難しいときはオンラインで連携を深めた。設立当初の参加者は11人だったが、現在は25人に。「まずは選手に自信を持たせること」と久保田さん。スタッフには元ロッテ投手の荻野忠寛さん(39)も名を連ね、個々のレベルに合った段階的な指導を心掛けている。
硬式野球に取り組む特別支援学校はごくわずか。硬くてスピードの出るボールは危ないと認識されているという。だが、久保田さんは「『できないだろう』という思い込みでチャンスを与えられない。野球が好きな子どもたちに甲子園への道を歩ませたい」と説く。
過去に夏の地方大会に出場した例も
久保田さんによると、選手が各地で地方大会に出場するには特別支援学校ごとに硬式野球部をつくり、それぞれ高野連に加盟の申請をする必要がある。しかし、各校単独でチームを組めるほど部員を集めるのは難しく、他校と連合チームを結成するのが現実的かもしれない。過去には鹿児島高等特別支援学校が、他校と組んで2016年夏の地方大会に出場した例がある。
練習試合の翌日、プロジェクトのメンバーは神奈川・慶応高野球部と一緒にノックや打撃練習に励んだ。参加した愛知・豊川特別支援学校の林龍之介選手(2年)は「いろいろなことを吸収できた。これから練習を頑張りたい」とうれしそう。「どういう形でもいいので大会に一度出てみたい。一つの夢でもあるから」。学校では陸上部に所属するが、硬式野球部の設立を願った上で、さらなる夢を思い描いていた。
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