なぜ千葉では公式戦ができない? 剣道部の高校生が嘆くコロナ禍の不条理 全国で4県だけ
大会1週間前に中止 隣の埼玉では開催
「練習ばかりしても楽しくない」。千葉県立高校の男子生徒(16)は3月下旬、取材に悲痛な思いを打ち明けた。小学1年から続ける剣道で、最後に公式戦に挑んだのは中学2年の秋。コロナで立て続けに中止となった。
所属する剣道部では練習中でもマスクとフェースシールドをし、その上から面を装着する。感染防止対策のルールで、得意な戦い方としてきた接近戦の「つばぜり合い」は禁止されている。それでも本番で後悔しない勝負をするため、コロナ禍に対応した自分なりのスタイルを模索。1月下旬に開かれるはずだった全国大会の県予選で、努力の成果を試してみたかった。
しかし、本番まで1週間を切ったころ、部の顧問から大会中止が告げられる。男子生徒は納得できなかった。同じ時期、隣の埼玉県では予選が開催されたからだ。当時はオミクロン株の感染が日ごとに拡大していたが、埼玉も千葉も新規感染者数はさほど変わらなかった。生徒の父親(49)も「近隣県では開かれているのに、千葉で中止になったことに、モヤモヤした気持ちがある」と漏らす。
実施した自治体は「教育委員会の方針」
3月末に愛知県春日井市で行われた全国高校剣道選抜大会の事務局によると、予選大会を行わなかったのは千葉、神奈川、茨城、岩手の4県だけ。
千葉県高校体育連盟(高体連)剣道専門部は中止の理由として、学校や学級単位の閉鎖が相次ぎ、出場校の減少が見込まれたことや、開催した他県で大会後に感染者が出たことなどを挙げた。神奈川の担当者も「当時は休校で参加できる学校が少なかった」とし、茨城の担当者は「十分に練習が積めず、安全に大会に臨める状況ではないと判断した」と説明する。
一方、開催に踏み切った東京、埼玉の担当者は「上につながる大会の予選は実施しても構わないとする教育委員会の方針から開催した」と口をそろえる。
コロナ禍の大会を巡っては、2020年の全国高校総体(インターハイ)や全国高校野球選手権(夏の甲子園)も中止に追い込まれた。法政大の荒井弘和教授(スポーツ心理学)は「大会という場で喜びや悔しさなど、さまざまな感情を経験できないことは、子どもの人格形成を考える上で大きな損失だ」と指摘する。
悩みやすい思春期 大人はどう支える
4月から高校2年になった男子生徒は現在、気持ちを切り替え、再び稽古に打ち込めるようになったが、すでに国内ではオミクロン株の別の亜型「XE」も確認されている。子どもらを苦悩させる事態は今後もやって来そうだ。
常葉大の太田正義准教授(教育心理学)によると、思春期後半に当たる高校生は社会の不条理を感じ取り、批判的に考えることができる時期。ただ、そうした自分の考えについて、さらに「そんなふうに思ってしまう自分が嫌」などと考えたりし、悩みが深まりやすい面もあるという。
「1人で抱え込まず、怒りや弱音を相談できる人がいると良い。誰かに分かってもらえることが、困難を乗り越える際の力になるからだ。こんな時こそ周りの大人たちの力が試される。消化しきれない思いを抱えていることをまずは認め、それぞれのペースで立ち直るのを見守ってほしい」