<記者の視点>分離教育では障害への理解が深まらない 国連が特別支援教育の中止を勧告…インクルーシブ教育の意義とは
障害児が普通学級の就学を拒まれる
自分の子どもが将来、地域社会で暮らしていくにはどうすればいいのか。障害のある子どもを持つ保護者が考え続けることの一つだろう。
障害児と健常児が共に学ぶ「インクルーシブ教育」を掲げる国連の障害者権利委員会が9月、障害者権利条約に基づく日本政府への勧告を発出。障害児を分離した特別支援教育を中止し、普通学級への就学を認めるよう求めた。
これに先立ち、権利委が日本政府や障害者団体に行った審査などには、市民団体「障害児を普通学校へ・全国連絡会」(東京都世田谷区)のメンバー7人も参加。障害児が普通学級への就学を拒否されるケースがあるなどと、切実な思いを訴えた。
だが、永岡桂子文部科学相は勧告後の記者会見で「障害のある子どもとない子どもが可能な限り、ともに過ごせる条件整備と、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備を両輪として取り組んできた」と強調。特別支援学校や特別支援学級の在籍児童・生徒数が増えていることに触れ、「特別支援教育の中止は考えていない」と明言した。
障害者が将来、自立するためには?
少子化が進む中でも特別支援教育を受ける児童・生徒は増えており、45万人近くに上る。文科省の担当者は特別支援教育について、普通学級に比べて教員の配置が手厚く、きめ細かな指導ができるため「保護者のニーズが高い」と説明する。実際、保護者からも「うちの子には特別支援教育が適している」との声を聞く。
では、国連は何を問題視したのか。日本が特別支援教育の体制を充実させればさせるほど、インクルーシブ教育から遠ざかることだ。今は真逆の分離教育が行われている側面が否定できない。
権利委の副委員長で、日本の審査を担当したヨナス・ラスカス氏は勧告後に来日し、障害者団体が国会内で開いた会合に出席。「インクルーシブ教育をせず、障害者が地域で自立した生活を送ることは難しい。政府は今後、自立生活を促すための計画を立てるべきだ」と主張した。
地域社会で障害への理解が進む効果
障害のある人は、その程度に応じて周囲の支援が必要になる場合がある。インクルーシブ教育では、障害児も健常児も学校生活を通じて学べるが、分離教育では機会が限られ、結果として社会全体の障害に対する理解は深まらない。ラスカス氏も「特別支援教育は障害者が大人になってからも、社会から分離されることにつながる」と指摘する。
小学校や中学校に通う年数は限られているが、そこで築いた友人関係は一生続く場合もある。インクルーシブ教育には、障害に対する地域社会の理解が進む効果も期待される。
地元の教育委員会などに反対されたとしても、障害のある児童と保護者が普通学級への就学を望むのは、将来を見据えた決断であることを知ってほしい。
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