進む「インクルーシブ教育」 障害のある子とない子が同じ学校内で学ぶメリットとは 常葉大・姉崎弘教授に聞く

前田朋子 (2020年5月13日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 障害者と健常者が共に学ぶ「インクルーシブ教育」を国が進める中、障害のある子どもの保護者から、特別支援学校ではなく、地域の学校の通常学級などで学ばせたいとの声が出ている。「共生社会」の実現に向け、あるべき教育の姿とは。常葉大教育学部の姉崎弘教授(特別支援教育)に聞いた。
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「インクルーシブ教育」推進の必要性を語る姉崎弘教授

「地域の学校に通いたい」上げやすくなった声

-静岡市などで、特別支援学校に通う子どもが地域の学校の通常学級や特別支援学級に通いたいと申し出るケースがある。

 日本は諸外国に比べ法整備が遅れていたが、2014年に国連の障害者権利条約に批准し、インクルーシブ教育を進めることになった。地域の学校で健常者と障害者が学ぶようシステムの転換を目指している。併せて障害者差別解消法も16年4月から施行、障害者が法的に守られるようになった。こうした情報が行き渡り、声を上げやすくなった。

課題は早期の選択肢提示と学校の受け入れ態勢

 -現状の課題は。

 行政は、教育サービスについて、保護者にできるだけ早期に多くの選択肢を提示すべきだ。多様な学び方があり、就学後も在籍校を変更することは可能だと周知する必要がある。県では2019年度から「交流籍」制度を本格的に始めた。特別支援学校に通う子どもたちが地域の小中学校にも籍を持ち、授業を受けることもできる。

 学校側は、教諭の特別支援教育の免許状取得率を上げる必要がある。自分は関係ないと思っていた教諭も、これからは障害のある子も通常学級に入ってくる時代になると認識し、そのための研修を受け専門性を高める必要がある。設備面では障害に応じた改修が必要。医療的ケアが欠かせない子には看護師資格のある支援員をつけるなど、教諭やその他の人員の増員も必要だ。特別支援学校には「センター機能」があり、地域の学校から要請があれば助言や援助をするよう法に明記されている。この仕組みも活用すべきだ。

差別せず人権を尊重する社会を実現するために

 -インクルーシブ教育で目指すべき学校とは。

 海外で見られるように、一つの学校の中に、(障害の重い順に)特別支援学校、特別支援学級、(発達障害や学習障害の子どもが学ぶ)通級指導教室、通常学級が同居するのが理想的。互いに行き来して交流することで、障害のある子どもたちの社会性も高まる。卒業後、地域で暮らす際、友達が車いすを押してくれるというのは何より心強い。

 健常の子たちも、障害者の生活、悩みや困難を知る機会になる。子どものうちに知識をきちんと持てば、障害者を差別せず、人権を尊重し、あるべき社会の姿を実現しやすくなるなど双方にメリットがある。

姉崎弘(あねざき・ひろし)

 北海道函館市出身。筑波大大学院教育研究科修了。静岡県立養護学校(現・特別支援学校)に約13年勤務。三重大学教育学部教授を経て2016年から現職。専門は特別支援教育(重度・重複障害児教育)とスヌーズレン教育。

インクルーシブ教育とは

 障害のある人とない人が、可能な限りともに学ぶ教育。インクルーシブは「包括」「包み込む」などの意味。欧米などでは主流となっている。姉崎教授によれば、米などでは障害児・者のほとんどが通常学校に通い、特別支援学校に通うのは特殊な事情のある5%ほどとのデータもある。

元記事:中日新聞 CHUNICHI Web 2020年5月11日

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