埼玉の朝鮮学校にやっと「保健室の先生」がやってきた 開校以来60年も不在…外国人学校は制度の対象外、格差解消を求める声
看護師の裵佳音さん 校長から懇願され
幼稚園児から中学生まで173人が通う学校の保健室で、今春から奮闘する裵佳音(ペかのん)さん(30)。総合病院の小児科で勤務していた看護師だ。長男の入学手続きの際、そのキャリアを知った鄭勇銖(チョンヨンス)校長に「この学校には保健室の先生がいない。子どもの話を聞いてくれる人を探している」と懇願されたのが、勤めるきっかけになった。
佳音さんは、埼玉県内の在日コリアン男性と結婚した日本人。「日本の学校しか知らないので、最初は保健室や養護教諭がいないってどういうこと?とピンと来なかった。急な話で悩んだけれど、引き受けることにしました」と振り返る。
まず、けがの応急処置の医薬品や簡単な常備薬をそろえ、アレルギーや既往症など一人一人の「カルテ」の作成を始めた。「生理痛なのでおなかを温めるカイロがほしい」と女子生徒が来ることもあれば、体調不良ではないが「先生、ちょっと話聞いて」と訪れる子もいる。放課後は大にぎわいだ。「私が日本人だから話せる悩みがあるかも。試行錯誤の連続だけど頑張っていきたい」と話す。
全国60の朝鮮学校 いるのは2カ所だけ
朝鮮学校は全国に約60校あるが、これまで「保健室の先生」がいたのは広島と京都の2カ所だけ。保健室があってもベッドを置いただけにしているような学校がほとんどで、埼玉でも同じだった。
「子どもが体調が悪くて不安でも、こんな環境で寝なきゃいけないのかと…。親が在日コリアンというだけでこんなに差が出るとは知らなかった」と佳音さんは言う。
朝鮮学校をはじめ外国人学校は、学校教育法で都道府県が認可する「各種学校」として扱われる。保健室や養護教諭の配置、健康診断や学校医制度など、児童生徒や教職員の健康を守る学校保健安全法の適用外とされている。文部科学省が2021年に全国161校の外国人学校に実施したアンケートでは、保健室がある学校は75%。養護教諭の配置は35%にとどまった。
高校無償化の対象外 補助金も打ち切り
学校に対する国の補助金が出ない中、自治体が独自に補助金を支出してきたが、国が朝鮮学校を高校無償化の対象から外したのを機に打ち切りが相次いだ。埼玉は2010年に県が補助金支給を停止。財政難にあえぐ中、保護者や支援する市民の寄付などで費用を捻出し「保健室の先生」を迎えた。
ほかにも週に数回、元養護教諭がボランティアで学校に滞在するなどの取り組みを進める朝鮮学校もある。ただ、これについて、学校保健に詳しい鳥取大の呉永鎬(オヨンホ)准教授(教育社会学)は「制度の裏付けがないため、人材や財源などで地域差が出てしまう」と、自助努力の限界を指摘。「学校の法的な位置付けにかかわらず、日本で暮らす全ての子どもの命と健康が守られると子どもの権利条約には明記されている。外国人学校にも学校保健安全法を適用するなど、制度的な保障をするべきだ」と話した。
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