今年も学生服の納品がピンチ ウクライナ侵攻で原料不足、「性差ないモデル」急増で生産ラインも逼迫
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人出不足やメーカーの国内回帰も
「素材・付属材料などの入荷遅れが発生し、新入学納品に向け大変厳しい生産状況になっている」
そう記された文書は、大手学生服メーカーの「東京菅公学生服」(東京都中央区)が1月、一部の販売会社に出したものだ。
なぜなのか。東京菅公や大手メーカーの「トンボ」(岡山市)によると、大きな要因がロシアのウクライナ侵攻だ。素材になるポリエステルの石油系の原料調達が難しくなり、素材メーカーからの生地の納品が遅れているという。東京菅公の担当者は「晴れの入学式に間に合わせるべく取り組んでいる」と強調する。
制服のモデルチェンジの増加も重なった。男女が区別される詰め襟やセーラー服をやめ、性別を問わないブレザーへと切り替えが進んでいる。毛織物メーカー「ニッケ」(大阪市)の調べで、中学、高校で2023年にモデルチェンジしたのは745校で、2021年より3倍以上増えた。
トンボ事業開発本部の担当者は「女子用でスカート一択だったのが、ズボンを選択できるようにした学校もある。注文数が読みにくくなった」と説明する。
さらに人手不足や、アパレルメーカーの国内回帰で生産工場の逼迫が拍車をかけているという。
「せっかく作ったので間に合って」
昨春、新型コロナウイルスによってメーカーの工場の操業が滞ったことなどで約100人分の制服を入学式までに届けられなかった販売会社「ムサシノ商店」(東京都武蔵野市)でも昨年10月ごろから、メーカーから「例年通りのスケジュールでは、納まらないかも」「過去最大に厳しい」といった連絡が入った。
こうしたこともあり、各校には採寸日や注文の締め切りを早めるよう依頼してきた。田中秀篤社長は「スタッフを増やし備えている。メーカーも何とか間に合わそうとやってくれている」と固唾(かたず)をのむ。
今春から長男が中学生になる三鷹市の50代女性は「せっかく作ったので、入学式に間に合ってほしい」と願う。「すぐに夏服になるし、体も大きくなるので、中古の制服を借りられるようにする仕組みはできないのか」と話す。
少ない競争、高い価格 直接購入で値下げできた高校も
学生服を巡っては、納品が入学式に間に合わない懸念があるほか、メーカーや販売店の間で競争が少なく、価格が高止まりしているという問題もある。総務省の2月の小売物価統計調査によると、東京都区部で制服は3万5000円前後で、過去10年間で約2割値上がりした。
公正取引委員会の2017年の調査で、生産は大手の4社でシェアの7割を超える。受注は学校単位でスケールメリットは小さく、新規参入が少ない。販売店も、学校が地域の店を指定するケースが多い。公取委は「固定化されるとコストダウンは起きにくい。学校はコンペや入札などで、メーカーや販売店を選ぶことが望ましい」と話す。
奈良市立一条高校では2019年、販売店を通さず直接メーカーからネット購入できるようにし、2割ほどの値下げを実現。高校関係者は「販売店の反発は大きかったが、保護者からは歓迎された」と振り返る。
とはいえ、学生服業界に詳しい兵庫県立大の小宮一高教授(流通論)は「メーカーはすでに生産効率を上げる努力を重ねており、大きな値下がりは期待しにくい。物価高で価格は上がる傾向だ」と指摘。制服が入学式に間に合わない恐れに「どこも綱渡りな状態で、今後も起きうる。学校側は遅れがちになる特注サイズなど予備の制服をストックしておくといった方法を検討すべきだろう」と説く。
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