高学歴親の「先回り」が子どもの自立を阻む 背景と対策は? 小児科医の成田奈緒子さんに聞く
失敗をあえて見逃せば、自ら模索する
運営する子育て相談所に、高学歴の保護者の方が来ることが増えています。収入が多く、お子さんがいい学校に行っていることも少なくない。特徴的なのは、努力で地位を築いた保護者が多く、正しい道が見えること。なので発達中の子どもが歯がゆいのですね。
このままいくと失敗すると見えてしまい、先回りして口を出す。結果的に子どもの発達や自立を阻み、場合によっては不登校や摂食障害、暴力などにつながることも。気持ちは分かりますが、あえて見逃して泳がせて失敗させ、正しい道を自分なりに模索することで、子どもは成長していきます。
溺愛し…「私と同じように高収入に」
ベースにあるのは溺愛。高学歴の親は晩婚傾向で、子どもにかけられるお金が多く、習い事を驚くほどやらせている親も目立ちます。「私と同じように高学歴で高収入の仕事に就くことが幸せ」と信じ切っている方や、いわゆる高学歴でなくても「自分より良い学歴を」と願うあまりに学歴偏重主義に陥った方も。
思ったほど子の成績が上がらないと焦ってしまい、低学年から夜10時、11時まで塾に通わせる。脳はゆっくり育つものですが、小さい頃から生活リズムが乱れるとうまく育ちません。
手を引くことが、遠回りのようで確実
干渉も、過ぎなければ大切です。大事なのは発達段階に応じて少しずつ手を引くこと。過度に世話を焼くのは、子どもを信頼できないから。そうした親は、まず家庭生活で子どもに役割を持たせてほしい。信頼をつくるのは結構簡単で、例えば2歳の子でも、洗濯物の山から自分の靴下を選べる。小学校高学年なら、お母さんが仕事から帰ってくるまでにみそ汁を作る。
それができれば親は信頼できて、ありがとうと言える。失敗しても叱らず、しょうがないね、きょうはみそ汁なしだ、と言っておけば、数カ月でできるようになります。生活の中でじっくり信頼をつくるのが、遠回りのようで確実です。
武勇伝や正論はいらない 傾聴しよう
親が「こうしなさい」ではなく、子どもが「こうしよう」と見つけ出すのが大事。子どもが相談事を話したら、ただ「傾聴」してあげる。気持ちを出すことで、子どもは思考が促されていきます。
親は武勇伝や正論を伝えたくなるけれど、思春期の子どもにとって、正論は自分とのギャップが大きすぎて、言われるほど不安になるんです。「ちょっと年上の友だち」レベルに降りてきてほしい。失敗談を聞かせるのもいいです。「自分も大丈夫」という安心感につながります。
成田奈緒子(なりた・なおこ)
文教大教育学部教授。子育て支援事業を手がける「子育て科学アクシス」(千葉県流山市)代表。1月に「高学歴親という病」(講談社)を刊行した。