「生理もスカートも無理や」性別違和を訴える子どもにどう接したらいい? 当事者や専門家に聞きました
涙の告白「男子として入学したい」
「みなさんは何も間違っていない。そのまま大きくなってね、という話をいつもしています」。三重県いなべ市のLGBT専門相談員で、NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」の東海理事を務める浦狩(うらがり)知子さん(60)は語る。
活動の原点は、浦狩さん自身の経験だ。9年前の年末、高校受験の願書提出を翌日に控えた末っ子の颯空(さく)さん(24)が、「お母さん、ごめんなさい」と急に声をかけてきた。
見たこともないほど真剣な表情で、震えながら何度も謝る様子に驚いた。「大丈夫だよ、どうしたん」と聞くと、「願書の性別の項目に丸が書けない」「生理もスカートも無理や」「高校は男子として入学したい」としゃくり上げながら告げた。
性自認で悩んでいるとは「思ってもいなかった」。ただ、幼い頃から颯空さんは、男の子のような格好を好み、中学時代はスカートをいつもくしゃくしゃにしてかばんに突っ込んでいたという。「『お母さん助けて』と言っているように聞こえて、何か褒めなければこの子は壊れてしまうと思った」。一人で悩んできた颯空さんに「今まで偉かったね」と声をかけた。
スラックスの制服「かっこええやろ」
当時、LGBTQに関する情報も社会の理解も、今とは比べものにならないほど足りなかった。颯空さんを支えようにも、大変なことばかりだった。スラックスで通える公立高校はなく、私立も「片っ端から電話をかけた」。願書の提出を遅らせて探し、自宅から1時間半かかるものの、理解のある高校を見つけた。入学式ではスラックス姿で「かっこええやろ」と胸を張る颯空さんの姿に、思わず泣き崩れたという。
性同一性障害という診断を受けるまでには2カ月ほどかかった。
家族などが交流する集まりは県内には見つからず、友人のつてで神戸市内のNPOを知り、毎月3時間半かけて通った。
颯空さんは高校に通う間に胸を切除する手術を受け、名前も「咲菜(えみな)」から改めた。颯空さんは「僕が高校生の頃は頼れる人は親しかいなかった。今はさまざまな情報があり、探せばほかにも頼れる場所が見つけられるはず」と話す。
学校の現場の「男女別」見直せるはず
当事者の声を聞ける関係性が大切
更衣室やトイレ、健康診断などに加え、水筒を集めておくかごや座席、黒板に張る名前マグネットが女性はピンク、男性は水色と分かれていることも。音楽の合唱や体育はもとより、英語の授業で会話をする際の三人称でも男女を分ける。
女性として生まれ、性自認が女性ではない「Xジェンダー」の当事者でもある渡部さんは「個人的には、そうした場面は限りなくゼロに近づけられると思う」。声の高さや運動能力は個人差もある。合唱や体育なら、性別によらず個人の希望や習熟度でグループ分けすればよい。更衣室を使う場合は、性別にかかわらず1人で着替えたい生徒全員の時間をずらしたり、別の場所を用意したりする対応も考えられる。ユニバーサルトイレについても「誰でも使っていい、使うのが当たり前という雰囲気をつくる」といった働きかけも有効だという。
渡部さんは「学校や先生が配慮の気持ちを持っていても、当事者がどういうところで困るかはなかなか分からない。想像だけで動かず、実際の声を聞ける関係性をつくれているかどうかも大切になる」と話す。
コメント