〈ペアレント・トレーニング〉3・上の子と向き合う時間が取れない→「スペシャルタイム」でほめまくる!

(2018年12月7日付 東京新聞朝刊)

 「ペアレント・トレーニング」の第3回は、ほめる練習の最終回です。子どもを「注意せず、ひたすらほめる」時間をつくります。「ほめるのはもういいから、問題行動を早く何とかしたいんだけど…」と思う方もいらっしゃるかもしれません。よーく分かります。書いている記者もそうでした。でも、急がば回れ。次のステップ「してほしくない行動を減らす」を進めやすくするためにも、子どもとよい関係を築いておくことが結局は近道です。今回は、小児科医の長瀬美香さんに、「上の子とゆっくり過ごす時間がなかなかつくれない」という悩みを相談しました。

悩み「一番上の子と向き合う時間が取れません」

 小学2年生と4歳の息子2人に手がかかり、一番上の小学4年生の娘とゆっくり過ごす時間がなかなかつくれません。

解決のヒント「15分間のスペシャルタイムを設けてみましょう」

<小児科医・長瀬美香さんから>

 忙しい毎日の中で、子どもとゆっくり向き合う時間を取るのは難しいものですよね。

 前回は、子の好ましい行動を上手にほめるこつをお伝えしました。今回は「スペシャルタイム」を紹介します。子にとっては親と2人きりで好きなことをして遊べる時間であり、親にとっては子の好ましい行動を見つけてほめるチャンスを手に入れられる時間です。

 まずは、何とか時間を見つけてみましょう。他の邪魔が入らず子どもと2人になれて、気持ちにゆとりの持ちやすい時間はありますか? 学校から帰宅後/夕食の後/寝る前など、15分~20分がちょうどよい時間です。

 きょうだいが複数いる場合、他の家族に他のきょうだいを見てもらうのが難しい状況もあるかと思います。そういう場合は、他のきょうだいがお風呂に入っている間や寝てから/保育園・幼稚園と学校で帰宅時間が違うので、その差を利用して-などで時間がつくれることもあります。少し離れた場所でテレビを見ていてもらうのもよいかもしれません。

子の年齢によっては、他のきょうだい同士で遊んでいてもらうこともできます(写真はイメージ)

 遊びの内容は、大人がやらせたいことではなく、子どもに選んでもらいましょう。トランプやボードゲーム、工作、お絵かきなど、親子でやりとりができる遊びを選び、テレビや動画の視聴、テレビ・携帯ゲーム、勉強は避けます。

ポイントは「たくさんほめ、注意はしない」

 始める前に、「スペシャルタイムというのをやってみようと思うんだ」「~分間、2人きりで好きなことをして一緒に遊べる時間だよ」と伝えましょう。遊んでいる間は、なるべくたくさんほめます。「うまいね」「そうきたか」といった声掛けも、子の自己肯定感を高めます。「かるたを並べてくれたのね」「クレヨン出してきてくれたんだ」と、子どもの好ましい行動を言葉にして笑顔で伝えるだけでもよいのです。

 例えばこんな感じです。

<カードゲームをする場合>
親「何する?」
子「ウノがいい!」
親「お、久しぶり、いいね。ウノどこだっけ?」
子「私、持ってくる」と取りに行く。
親「ありがとう!」(持ってきてくれたところで)「誰が配る?」
子「私がやるよ」と言ってカードをきり始める
親「わー、ずいぶん早くてうまくなったね」
(配り終わる)
親「ありがとう。どうやってやるんだっけ?」
子「そんなのも覚えていないの?もう。最初は〜」と説明する
親(文句は気付かないふりをして)「ありがとう、教えてくれて。分かったよ」
(ゲームを始める)
親「そうきたかあ」「そんなカード持っていたの」「おー、2枚いっぺんか」などと反応
(親が出したあと、子が「やっぱり」と言って先ほどのカードを引っ込めて、出し直す)
親(「一度出したのを変えたらダメだよ」とは指摘せず)子が出し直したカードに対して出す。
※「えー!」と笑顔で言うくらいはOK

 ここで気を付けたいのは、「~しなよ」といった指示や、「~じゃダメだよ」といった否定的なコメントをしないことです。好ましくない行動があるかもしれませんが、「ゲームでずるをしてはいけない」などの教育的な指導は別の機会に回します。気付かないふりで、2人きりの時間を満喫しましょう。

 15分~20分という短い時間を設定するのも大事なポイントです。子にとってはうれしい時間ですが、親にとっては、長すぎるとルールを破ることを注意したくなったり、ほめ疲れたりします。親に余裕があれば、子からの要請に応じて10分程度延長するのはよいでしょう。あくまで、いつもとは違った枠、「親はできるだけほめ、注意をしない」というのがスペシャルタイムなのです。

担当記者がやってみると…

 娘から「寝る前に時間ができたら、かるたをしたい」とリクエストがあり、実現。15分ほどの間に「並べてくれてありがとう」「取るの早いねえ」「その札、得意なんだね」とたくさんほめることができました。途中、取り損ねた札を自分のものにしたことを指摘するのは我慢。不機嫌な顔をすることも増えてきた娘の満足そうな笑顔を見られ、私にとってもスペシャルタイムでした。

たった15分なのに「お母さん、ありがとう」とうれしそうな娘。「短い時間でこんなに喜んでくれるなら、近いうちにまた」と思いました(写真はイメージ)

 さて、その間の息子2人はというと…。「お姉ちゃんと約束したから、15分だけお願いね」と小学2年生の上の息子に頼んだところ、意外にも優しい態度で4歳の弟にカードゲームのやり方を教えながら遊んでくれていました。いつもはすぐケンカが始まってしまう2人ですが、上の息子は「お母さんに頼まれたから」とお兄ちゃんの態度で接してくれた様子。何とかなるものだなと、こちらもうれしい発見でした。

 「ペアレント・トレーニング」は発達障害児の親向けに採り入れられることが多い手法で、子育てのさまざまな場面で有効です。「お母さん、いつも怒ってるよね」と言われてしまった4歳、小学2年、4年の3児を子育て中の記者が、実際にペアレント・トレーニング講座を受講。実施経験が豊富な、心身障害児総合医療療育センター(東京都板橋区)の小児科医・長瀬美香さん(50)と臨床心理士・三間直子さん(47)に、声掛けや振る舞い方のヒントをいただきながら進みます。

※「笑顔が増える ペアレント・トレーニング」は毎月第1金曜に掲載します。次回の掲載は1月11日です。