〈坂本美雨さんの子育て日記〉44・「ようふくより、ママが…」甘い言葉にとろけて、抱きしめた
抜糸の前夜に、恐ろしくなって
前回書いたお風呂でのケガのあと、1週間で傷はふさがったのだけど、今度は抜糸が恐ろしくなってしまった5歳の娘。一度は泣いて断念、二度目は2針抜糸、三度目に残りの3針、と整形外科に三度通って処置は終わった。
救急病院に向かう時に娘の幼なじみのコンちゃんが持たせてくれたピカチューのぬいぐるみとえりすぐりのポケモンカードには、かなり助けられた。抜糸の前夜、ポケモンの力が身体に入ってくるんじゃない?とカードを枕の下にして眠り、翌日「わ! 力が宿っている!」と騒いだ。
そんなこと言ってくれるの…!
勇気を出すために何をしたらいいだろう…と思い巡らすのは新鮮だった。大好きな歌、好きな洋服、ぬいぐるみ、おまじないの言葉。バタバタと朝の支度をしながら「自分で元気になれるお洋服選びなよ」と、エルサのドレスになってもまあいいか、と思いながら声をかけると、少しして娘が洗面所にやってきてボソッと「ようふくより、ママが…」と言って、太ももにくっついた。
「え?」と何度か聞き返し、つまりは、洋服の力を借りるより、ママが一緒にいることのほうが力が出る、ということを伝えてくれたのだった。…なんてこったーーい!と心の中でとろけた。いや、文字通り、とろけて、抱きしめた。そんなこと言ってくれるのか…! 私の人生に甘い言葉があっていいのか!(おおげさ)
父への思いがフラッシュバック
さて、先日ビルボードライブ東京でコンサートがあり、娘が観(み)に来てくれた。彼女が大好きな森山直太朗さんをゲストに迎えての、昼夜2回の公演。第1部が終わり、じょうずだったと褒めてくれ、いったん父親と家路についたのだが、しばらくして電話を取ると「2回目も見たかった」と床で泣き崩れている。
その瞬間、フラッシュバックした。私も父(坂本龍一さん)のライブを観に行けなかった時に、胸がちぎれそうに泣いたことがあった。今の彼女よりもずいぶん大きくなってからのことだが。なぜだかは分からないが、失恋にとても近い痛みだった。あの気持ちを思い出すと、夜遅くなるし…夕飯の時間は…など親の都合は捨てるしかなかった。2回のライブを見守ってくれた娘は直太朗さんの「人間の森」を客席でしっかり歌っていたそうだ。ライブを観ながら娘が描いてくれた絵がある。これからこの絵が、私にとっての強力なポケモンカードになるだろう。(ミュージシャン)
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