ロングセラー絵本はなぜ読み継がれる? 老いや死、新たな価値観…大人にも響く新たな作品も 「世代をつなぐ絵本」の今

, (2021年5月3日付 東京新聞朝刊)

ロングセラーの絵本の数々。右上から時計回りに「葉っぱのフレディ いのちの旅」「だるまさんが」「はらぺこあおむし」「ちいさいおうち」「ぐりとぐら」「ノンタン ぶらんこのせて」「いないいないばあ「100万回生きたねこ」

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 「生まれて初めて出合うメディア」と言われ、子どもの成長の傍らにある絵本。ロングセラー作品がある一方、老いや死といった重いテーマを扱ったり、自分とは異なる他者への共感を自然と引き出す作品も生まれている。親から子へ読み聞かせるばかりでなく、大人が読んで新たな価値観に気づくことも。世代をつなぐ絵本の今を伝えたい。

【ランキング表に載っていない絵本】
「ちいさいおうち」(岩波書店)バージニア・リー・バートン・文・絵、石井桃子・訳
「100万回生きたねこ」(講談社)文・絵・佐野洋子
「ノンタン ぶらんこのせて」(偕成社)作・絵・キヨノサチコ
「ウォーリーをさがせ!」(フレーベル館)マーティン ハンドフォード・作・絵
「葉っぱのフレディ いのちの旅」(童話屋)レオ・バスカーリア・作、みらいなな・訳、島田光雄・画

ロングセラー絵本の「2つの特徴」

 「いないいないばあ」「ぐりとぐら」「はらぺこあおむし」。絵本累計発行部数ランキングには、誰もが一度は手にしたことがあるような作品が並ぶ。7位までを1960~70年代に刊行された作品が占め、2000年以降の作品は「だるまさんが」の1冊が入るのみだ。

 東京都中野区にある児童書専門の私設図書館「東京子ども図書館」理事長の張替(はりかえ)恵子さん(67)は「子どもが支持する本は、昔も今も変わらない」と話す。子どもが繰り返し読みたがる作品には主に2つの特徴があるという。「主人公に自分を重ね、日常の地続きで世界を広げていける絵本。そして、言葉の響きに面白さがある絵本。そういう作品が、素直に子どもの心に入っていく」

東京子ども図書館の張替恵子理事長

 「せきたんやのくまさん」(福音館書店)などクマの人形がいろいろな仕事を体験するシリーズは1948年に英国で生まれた作品で、今も子どもたちに愛される。「うんとこしょ どっこいしょ」の言い回しが心地よい「おおきなかぶ」も同様だ。「こうした本をコメの飯を食べるように繰り返し読み、子どもは心を太らせていく」

「せきたんやのくまさん」福音館書店

自分のペースで想像の翼が広がる

 動画コンテンツやゲームなど、今は子どもが一人で楽しめる娯楽が身の回りにあふれる。しかし、「絵本の強みは、むしろ絵が動かないこと。どの子も自分のペースで楽しみ、想像の翼を広げられる」と張替さん。

 大人の仲介によって、子どもたちがその楽しさを知っていくのも絵本の貴重な面だ。「親の膝に座って肉声で絵本を読んでもらった経験は、手触りと重みのある本の存在とともに、幸せの記憶として子どもの心に残る」。親にとっても、幼い子どもと絵本を楽しんだ時間は、長く続く親子関係の支えとなる。

 子どものころ好きだったあの作品を次の世代に手渡していく。その営みの連なりが、世代を超えて長く読み継がれる絵本の存在を生み出している。

「死」もテーマ 心の大きな支えになる「グリーフケア」の絵本

 「親や兄弟、家族の死を受け止め、これからをどう生きてくのかを考える上で、絵本は大きな支えになる」。大人にこそ絵本を手に取ってほしい、と伝えているノンフィクション作家の柳田邦男さん(84)はこう話す。

 柳田さんは絵本には深い悲しみから人を救うグリーフケアの力があると感じている。柳田さん自身、20代だった次男を亡くして間もない時期、息子たちが幼い頃によく読み聞かせた絵本を本屋で手に取ったことが心の転機になった。「特に宮沢賢治の『よだかの星』の絵本は、息子を重ね合わせて読んだ」

 新型コロナウイルスの感染拡大やその影響が連日伝えられてきたこの1年。「死」や「病」が身近になり、不安な気持ちを抱えている子どももいる。かつては児童文学者の中には「死」や「死別」など重い内容を絵本のテーマにすることに否定的な意見もあった。しかし近年、こうしたテーマを真正面から取り上げた絵本が増えている。

 

 今年2月に出版された「おじいちゃんのたびじたく」は、柳田さんがすすめるグリーフケア絵本の1つ。まるで遠足に出かけるように旅路に出るおじいちゃんが描かれる。「子どもは、おじいちゃんが亡くなったことへのわだかまりや喪失感にとらわれすぎず、素直に死を受け入れられる」と柳田さん。祖父母世代も一緒に読むことで、死もまた、日々の営みの延長線上にあるのだと受け止め、いつか来るその時に向けた心の準備ができるという。

 柳田さんには世代を問わず、絵本によって身近な死を受け入れられた体験が寄せられる。5歳の弟を難病で亡くした小学生は、亡き存在の思い出が残された者を癒やすことを描いた「わすれられないおくりもの」(評論社)を読み「弟は今も自分の心の中で生きている。だからこそ、自分の人生を大切にしていきたい」とつづった。「本質をついた表現が受容をもたらすのだと思います」(柳田さん)

「障害者との共生」の大切さを伝える絵本 価値観が変わる機会に

 自分とは異なる存在への理解や共感を引き出してくれる絵本も多くある。障害者をめぐる社会の問題について30年近く取り組んできた柳田さんが注目するのは、「障害者との共生」の大切さに気づかせてくれる絵本作品だ。

 柳田さんが出会ったある母親は、生まれつき両手の指がない先天性四肢障害の子を育てていた。障害について子どもにどう話そうかと悩んでいたが、同じように手に障害がある女の子を描いた「さっちゃんのまほうのて」(偕成社)に励まされたという。障害があっても堂々と生きられる子に育てようと思っていた彼女は、本との出合いでその確信を深めたという。

 21世紀に入ると、発達障害や難病など、外からは見えにくい障害がある人たちも、自分たちの特性を理解してほしいと積極的に発信するようになった。絵本の世界にもこうした社会の動きは反映されている。

 2月に出版された「みんなとおなじくできないよ」(日本図書センター)は、発達障害のある弟がいる小児科医による作品だ。「自分とは違うものに対する受け入れがたさは誰の心にもある。絵本はそこを柔らかく受け入れさせてくれる」。自分の心の底にある価値観を転換したり、差別や偏見から脱したりしたいと願う人に、柳田さんは絵本をすすめる。

 長年多くの絵本を子どもに手渡してきた張替さんは「想像力をかき立てる魅力的な絵と、選び抜かれた言葉が溶け合った独自の表現ジャンルが絵本」と指摘する。知力をつける目的で与えるものではなく、楽しい、うれしい、悲しいといった感情を沸き立たせる力が絵本の魅力だという。「人生は生きるに値するもの、というメッセージを絵本から受け止めてもらいたい」