つかまり立ち期の転倒に注意しましょう 生後6~10カ月に多発、後頭部を強打して重症化することも
マット敷いた床にゴン 急性硬膜下血腫に
昨年6月、東京都内のある家庭で起こった出来事だ。台所で妻=当時(30)=が夕食の調理を終え、夫=同(31)=が配膳をしようと、リビングのテーブルでつかまり立ちしていた生後10カ月の長男のそばを離れた時だった。ゴンッ。鈍い音とともに、長男がマットを敷いたフローリングの床に倒れ、後頭部を打った。
大泣きした後、目線が合わなくなり、手足を突っ張らせてけいれんし始めたため、夫婦は救急車を要請。長男は搬送中の車内と病院で3回嘔吐(おうと)し、コンピューター断層撮影(CT)で急性硬膜下血腫と診断された。手術が可能な病院に転院後、眼底出血と頭蓋骨のひびも判明した。
長男は事故の2日前につかまり立ちを始めたばかりで、この日の朝も一度転倒し、後頭部を打っていた。その後、大きな後遺症の心配もなく、2週間ほどで退院でき、今は2歳になって元気に過ごしている。
頭が大きく、足腰は未発達 転びやすい
子どもの頭部損傷に詳しい「竹の塚脳神経リハビリテーション病院」(東京都足立区)の小児脳神経外科医、西本博さん(72)は「家庭内の頭のけがは2歳以下の子に起こりやすく、赤ちゃんがつかまり立ちを始める生後6~10カ月がピーク」と話す。乳幼児は体全体に比べて頭部が大きく、支える足腰の筋力も未発達のため、転びやすいという。
西本さんは、2002年までの10年間に家庭内で急性硬膜下血腫となった生後6~17カ月の25人を診療し、5年以上にわたり経過観察をした。その乳幼児の7割以上は後方に転倒・転落したことが原因で、全体の64%がつかまり立ちからの転倒、28%が高さ120センチ以下からの転落だった。多くは後遺症が見られなかったが、約1割の子には軽度の発達の遅れや運動まひが残った。
年齢が低いほどダメージに…防止策は?
家庭で気を付けたいことは「できるだけ、子どものそばを離れないこと」と西本さん。複数の大人がいると油断しやすいが、子どもから離れるときは声を掛け合うことが大事だ。1人で世話中は、ベルト付きの乳幼児用いすに座らせるなどしてから離れる。「転倒や転落を完全に防ぐのは難しい。年齢が低いほどダメージが残りやすいので、頭を打った場合は二度、三度と繰り返さないようにして」と注意を促す。
赤ちゃん用のヘッドギアやリュック型のクッションなど、転倒時の衝撃を和らげるための育児グッズもあるが、効果は限定的だ。「頭蓋骨の骨折を防ぐことはできるかもしれないが、衝撃により頭蓋内で脳が大きく動くのは防げず、硬膜下血腫は起こり得る」
冒頭の母親は「つかまり立ち期の転倒がこんなに重大な結果になるとは事故に遭うまで知らなかった。目を離した私たちが悪いが、事故の前に知っていたらもっともっと注意できたのに」と振り返る。母子保健分野に詳しく、保健師としての経験も豊富な香川大医学部准教授の辻京子さん(53)は「育児スタート期の保護者に、子どもが転倒して頭を打つことのリスクを広く伝える必要がある」と指摘。母子手帳への記載や、全員が対象の乳児健診などでの啓発の徹底を訴える。
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