子どものヘディングが「脳に悪影響」欧米で練習禁止の動き 日本でも議論に

長田真由美 (2021年1月29日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
 子どもから大人まで世界中で多くの人が楽しむサッカー。日本サッカー協会によると2019年度、国内の12歳未満の選手登録数は約27万人に上る。一方で、ヘディングを繰り返すと、発達中の子どもの脳に悪影響を与える恐れがあるとして、欧米では練習を制限する動きが出てきている。
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2020年7月12日のJ1清水ーG大阪戦で、ヘディングで競り合う選手たち=IAIスタジアム日本平で

英国の元プロ選手調査 神経細胞が…

 11歳以下はヘディング練習を禁止、12歳は月に1度、最大5回…。昨年2月、イングランド・サッカー協会は、年齢ごとに18歳以下のヘディング練習の頻度や回数を制限する指針を打ち出した。サッカー発祥の地、英国の決断は驚きを持って受け止められた。

 背景には英グラスゴー大が2019年に発表した研究結果がある。サッカーの元プロ選手を中心に約7700人を調べたところ、一般の人に比べ、脳の神経細胞が破損、死滅するなど正しく機能しなくなり、アルツハイマー型認知症などの疾患で亡くなる確率が約3.5倍も高かった。ヘディングとの直接の関係は分かっていないが、同協会は脳が発達中の子どもへのリスクを考え、決断した。

 既に2015年には米サッカー協会が、昨年6月には欧州サッカー連盟も、若年層のヘディング練習を制限する指針を出している。

日本の小3男子「痛い」脳内出血だった

 日本でも、子どものヘディングのリスクを訴える声が上がる。都内在住の会社員七澤崇聖(しちさわたかまさ)さん(49)は昨年2月、小学3年だった息子が、ヘディングの衝撃で脳内出血を発症した。息子は以前から頭痛を訴えることがあったが、ある時、「すごく痛い。これ以上歩けない」とうずくまった。大学病院を受診したところ、左側頭部に、大人の手のひらほどの血腫ができていた。

 脳は内側から軟膜、くも膜、硬膜に覆われるが、検査で息子には先天的なくも膜嚢胞(のうほう)があると判明。くも膜の一部が袋状になり、髄液がたまっていた。こうした状態で衝撃が繰り返されると、一般的に硬膜と脳の隙間に血がたまる硬膜下血腫を合併する確率が高い。

 小学1年からサッカーを始めて2年。特別にヘディングの練習が多かったわけではない。ただ、それ以外に原因は見当たらず「ヘディングが硬膜下血腫を引き起こした」と診断された。

安全なプレー環境を考える団体が誕生

 再び出血すると命に関わるとして、大好きなサッカーはあきらめざるを得なかった。七澤さんは昨年11月、スポーツの安全なプレー環境を考える団体「フットボールファミリー・ユナイテッド」を設立。情報の発信、共有に努めている。

2020年1月、ジュビロ磐田のキャンプでヘディングするFW小川航基選手=鹿児島市の鴨池陸上競技場で

 スポーツによる頭部外傷に詳しい脳神経外科医で、獨協医科大准教授の荻野雅宏さん(58)によると、長期にわたり衝撃を受けて脳振とうを繰り返すと神経変性疾患に至るという報告は国内外で多い。ただ、因果関係は証明できていない。

 とはいえ、子どもは体の大きさに対して頭が重く、不安定だ。首の筋肉も鍛えられておらず、支えが不十分で脳に強い衝撃を受けやすい。加えて、理由は不明だが、子どもの方が脳振とうの症状が長引きやすい。荻野さんは「それまでと違う頭の痛みがあったら、周囲に訴えることをためらわないで」と呼び掛ける。

Jクラブ運営スクール「ヘディング指導はしない」 日本サッカー協会もガイドライン検討

 日本の若年層へのヘディング指導について、Jリーグのジュビロ磐田が運営するサッカースクールのコーチ、小河路容弘(こかわじよしひろ)さん(52)は「チームのレベルや方針で異なるのでは」と話す。小河路さんによると「ヘディングは正確におでこに当てる、相手と競り合いながらゴールを見極めるといった高度な技術が必要」。スクールには小学5、6年生200人以上が所属するが「勝ち負けより楽しくプレーすることが目的」なため、ヘディング指導はしない。パスなど足を使った練習に比重を置いているという。

 日本サッカー協会は、子どものヘディングについて継続的に議論をしている。将来的には「何らかのガイドラインを作成したい」とコメントしている。

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