〈スポーツ虐待〉萎縮させず、成長を支えるのが指導者の役割 広がる「子どもの権利とスポーツの原則」

子育て世代がつながる

スポーツ虐待

 子どものスポーツ指導の場に残る暴力や精神的な抑圧。こうした「スポーツ虐待」に苦しむ子をなくし、競技を通して子どもの成長を保障するために必要なことは何か。実態を取材した前編に続き、各所で芽生えている変化について、伝えます。
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「相手をたたえるセレモニー」で乾燥を述べる子どもたち(日本ホッケー協会提供)

「今」だけでなく、長い目で成長を促す

 「今、上手にプレーできるかだけでなく、長い目で見て競技でも人間としてもその子が成長できるようにするのが指導者の役割」。日本ホッケー協会常務理事の瀧上(たきがみ)正志さん(57)は、子どものスポーツ指導で大切な点をこう説明する。

 日本ホッケー協会は今年1月、2018年にユニセフが公表した「子どもの権利とスポーツの原則」に賛同した。原則は、スポーツで子どもの成長を支えることを目的に掲げている。協会は具体的な取り組みとして、全国のスポーツ少年団が集う交流大会で「相手をたたえるセレモニー」に取り組む。

 試合直後、対戦した選手や指導者、審判がその場で試合を振り返り、相手の良かった点や参考になったことを自分自身の言葉で伝える。瀧上さんは「対戦相手の評価に接すると、子どもたちの自己肯定感が高まり、また頑張ろうと思えるようになる」と狙いを話す。

子どもの権利とスポーツの原則(抜粋)

体罰の必要論者に正面から伝えられるか

 この2年間、日本サッカー協会や日本高等学校野球連盟など、ユニセフの「原則」の賛同団体・企業は37まで増えた。スポーツ法が専門で、原則の起草委員を務めた山崎卓也弁護士は「賛同の広がりは予想以上。ただスポーツで成功した人が『体罰のおかげ』という意識を持つ限り、同じことが繰り返される」と警戒する。「それぞれの現場で改善しようとする人たちが、縦社会の人間関係の中、体罰の必要論者に正面切って伝えられるかがカギになる」

 プロ野球選手や、Jリーグなどのサッカー選手の権利擁護に努めてきた山崎さんは、スポーツ界にはびこる勝利至上主義からの転換を呼び掛ける。「違いを尊重し、対話しながら協働していく社会のあり方をスポーツで実現していく意識変革が必要だ」

 子どものスポーツ虐待についてオンライン調査をした国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)日本代表の土井香苗さんは「競技団体の任意の取り組みに任せていては、長く続いてきた慣習や価値観を自然に変えるのは難しい」と訴え、スポーツ虐待を専門に扱う国の組織をつくることを提起する。「『暴力は仕方ない』という子どもたちの意識も、大人が組織を作って子どもを力づけていけば変わっていくはず」

暴力で部活をやめて「スポーツが怖い」

 22日掲載の前編「暴力が日常だった高校アメフット部 頭蓋骨がずれ、被害を訴えたらさらに報復が… 抑圧的な土壌を変えるには?」で紹介した萱原(かやはら)康介さん(18)は高校時代、先輩らの暴力でアメフット部を退部。その後も「また暴力を受けるのではと、怖くてスポーツを再開する気持ちになれなかった」という。

 そんなとき思い返したのは小学校時代のサッカークラブのこと。「指導者を怖いと感じたり、プレー中に萎縮したりすることはまったくなかった」。試合前には子どもたちだけで話し合い、試合のプランや目標を決めた。試合に出ている子もそうでない子も、グラウンドに行くのが楽しくて仕方なかった。

 「スポーツって本来楽しいもの。そのことを伝えられる大人になりたい」。萱原さんは大学進学を目指し勉強中。体育会系の部に入り、競技者としてスポーツと暴力の問題に取り組みたいと夢を描いている。

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