子どもがもりもり食べる保育園給食 調理や食器、声かけの工夫は?「みんなのほいくえん」見学ルポ
「子どもにごはんを食べさせるのに苦労している」という小さい子を育てる親御さんからの声を受け、4月から新連載「子どもが喜ぶ! 保育園給食の人気レシピ」を始めました。「保育園では完食していますよ」という保育士さんからの報告にほっとしつつも、「どうして園ではちゃんと食べられるんだろう」とわが子の給食の様子が気になる保護者も少なくないようです。
ただ、コロナ禍で保育参観を控えている園もあり、ましてや食事シーンを目にする機会は少なくなっています。子どもの「食べたい!」を刺激するようなメニューや食事の秘密はどこにあるのでしょう。連載でレシピの紹介を担当する管理栄養士の中村えみ子さんが勤める「みんなのほいくえん at むさしこすぎ」を訪ね、調理や食事の様子を見学してきました。こまやかな調理の工夫と、食事中の前向きな声かけをリポートします。
アレルギーに配慮 小麦粉ではなく米粉
子どもたちがお散歩に出かけている最中の午前10時30分ごろ、園の調理室では給食の準備の最終段階に進みます。
慣らし保育中でお昼前に帰る子がいるため、この日の給食を食べる子は、昨年度から引き続き在籍する1歳児3人と、2歳児5人の計8人。朝8時に下ごしらえを始めた中村さんと同僚栄養士は、2人で煮たり焼いたりの仕上げに取りかかっていました。魚を焼く香ばしいにおいや、焼きたての白米の湯気がただよってきます。
この日のメニューは、
- ごはん
- 鶏肉と野菜のみそ汁
- メカジキの照り焼き
- ヒジキの中華風あえ
- リンゴ
です。
栄養士さんが色よく焼いたメカジキを、食べやすいように一口サイズに割っていきます。「子どもはパサパサしていると食べにくいので一工夫しています。身に米粉をまぶしているので、しっとりして、たれもよく絡みます」と中村さん。小麦アレルギーの子も同じものを食べられるよう、小麦粉ではなく米粉を使いました。
同じ1歳でも月齢で…驚くほどの丁寧さ
続いて、ヒジキの中華風あえをメカジキの照り焼きの横に盛り付けていきます。ニンジンと枝豆で黒いヒジキに彩りを添え、ツナを加えて味良く仕上げています。鮮やかな黄緑色の枝豆には、ぱっと見ただけでは分からない下ごしらえがされていました。
「枝豆は薄皮を全部むいて、1歳でも月齢の低い子向けにはギュッと豆をつまんで軽くつぶしています。それだけで食べやすくなるので、子どものハードルが下がるんです」という中村さんの説明を聞いて、そこまで手を掛けていることに驚くと同時に、子どもが「食べられない」「苦手」とつまずくのは、こんな小さな食感や硬さなのだなと新鮮に感じました。
その隣では、中村さんが1人分の白米のごはん80gを、はかりで確かめながら茶わんによそっていきます。
園では、茶わんもおわんもお皿も、重みのある強化磁器を使っています。「子どもたちが、落として割ってしまいませんか?」と尋ねると、「それが、子どもたちが割ることはほとんどないんですよ。私たちが食器を運ぶときにぶつけて割ることはたまにあるんですが…」という意外な答え。
メイン用の直径15センチの円形のお皿は、3センチほど立ち上がった縁におかずが引っかかるので、とてもすくいやすそうです。
「一人でうまくスプーンにのせてすくえるので、子どもの自分で食べたいという気持ちを応援してくれる食器なんです」と理由を教えてくれました。
食の細い子にも 達成感が生まれる工夫
できあがった給食を札本裕子園長が試食して味と安全を確認し、盛り付けが終わると、いよいよ給食の時間。11時15分になると、子どもたちがおもちゃを片付けて、順々に手を洗い、エプロンをつけてもらいます。3つのテーブルに分かれて座り、保育士さんの「おててぱっちん、ごいっしょに!」の声に合わせて、どの子も大きな声で「いただきます!」。11時30分、給食のスタートです。
「何から食べてもいいよ」「おさかな、ぱく! おいしいね~」「カミカミカミカミ、じょうずだね~」。2歳児の女の子3人が並ぶテーブルでは、保育士さんが、ニコニコの笑顔で励ますように声かけ。子どもたちはスプーンでお皿の縁におかずを寄せてすくい、旺盛に口に運びます。
1歳児のテーブルでは、小さなぷくぷくの手でスプーンを握り、上手にメカジキの照り焼きをスプーンにのせて口に運ぼうとするも、口に入る手前で膝の上に落としてしまう男の子も。別の男の子には、保育士さんが食べやすいように、ごはんとおかずを混ぜてスプーンにのせてあげていました。
両手でスープのおわんを持って、ごくごくと飲み干した女の子は、とってもおいしかったのか、飲み終わっておわんが空になってからも、しばらくおわんに口をつけたまま、首をさらに後ろに傾けていました。「そうなんですよ。もっと飲みたい!とおわんをかじっている子もいるんです」。保育士さんがほほえみながら子どもの動きを見つめます。
園長の札本さんは「食の細い子は初めからたくさんよそうと残してしまうので、保護者と相談した上で、少なめによそっておかわりに取っておきます。少しの量だと完食もしやすく、達成感が生まれます。じゃあ、もう少し食べてみようかな、という気持ちになれるような声かけをしながら量を戻していくと、いつの間にか全部食べられるようになる子が多いんです」。
ただ、完食は目指しても、無理に完食はさせないと言います。「食事が苦痛な時間になってほしくない。食べるのが嫌いにならないように」
保育士はマスク 食欲を引き出す声かけ
コロナ前は、保育士の先生たちも一緒に食べていた給食ですが、今は子どもたちだけが食べ、保育士はマスクをしながら見守り、介助します。保育士たちは休憩時間に食事を取っていますが、札本さんは「本当は保育士が一緒に食べて、口元を見せることがとても大事。子どもたちに食べ物をかむところを見せられるだけでなく、子どもたちは口の動きを見て言葉を覚えるから」と話します。
今はその分、保育士たちはマスクの下から、たくさんたくさん、子どもたちの食事を励ます声かけをしています。葉物野菜の苦手な子には「はっぱさん、ちょっとにしたよ」。お魚を前にためらっている子には「おさかな、いってみる?」。白いごはんが残ってしまった子には、「ヒジキ、のせてみようか」。先生の明るい声と、隣のお友達の食べっぷりにつられるように、子どもの手と口が動いていました。
撮影を担当した木口慎子カメラマンと一緒に、私も別室で給食をいただきました。どれも素材の味がしっかり分かる優しい味付けながら、不思議と「薄い」と感じることはなく、ごはんも進みました。
特においしいと感じたのは「ヒジキの中華風あえ」です。ニンジンと枝豆の鮮やかな色合いが食欲をそそり、ツナの味が効いていました。これは子どもたち、よく食べるはずだわ、と納得です。この連載のどこかで、この日のレシピも紹介してもらえるようお願いし、園を後にしました。
管理栄養士・中村えみ子さん
1969年生まれ。川崎市にある「みんなのほいくえん at むさしこすぎ」の管理栄養士。大学病院などで栄養士として勤務後、子育てを経て、保育園の管理栄養士として復職。素材のよさを最大限に生かしたいと、同僚栄養士が驚くほど丁寧な下ごしらえを心がけている。アレルギーに配慮した給食に力を入れるのは、「みんなで同じものを食べれば、子どももうれしいし、保育士・調理師・栄養士の負担も減るし、食べ間違いのリスクも減らせるから」。
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