赤ちゃんの離乳食「手づかみ食べ」のススメ 食べさせるより”好奇心と安心”が食べたい気持ちを引き出す

(2020年10月30日付 東京新聞朝刊)
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離乳食で大切なのは、赤ちゃんが自分で食べたいという気持ちを引き出すことだ

 赤ちゃんを育てていて悩むのが離乳食の進め方だ。子どもの摂食や嚥下(えんげ)を診療する小児科専門医、田角(たつの)勝さん(67)は、親がスプーンひと口から始める「食べさせる」離乳食から、赤ちゃんが自分から食べる離乳食への転換を勧める。「赤ちゃん中心に離乳を進めれば、『思うように食べてくれない』と悩む親も、もっと楽になる」と助言している。

「育児書の通りに、工夫したのに…」

 「工夫しているのに離乳が進まない。病気でしょうか」。生後7カ月の娘がいる30代の母親は今春、田角さんにこう相談した。5カ月ごろ離乳食を開始。育児書に従い、コメを10倍の水で炊いた「10倍がゆ」をスプーンで一口から与え始めた。だが、娘は食べずにスプーンを押し出してしまう。裏ごしした野菜なども嫌がるため、女性は不安になり受診した。

 「スプーンで食べさせるのをやめてみましょう」。田角さんの提案は、赤ちゃんの食べたいという意欲を生かす「手づかみ食べ」。その日から赤ちゃん用のいすに座らせ、つかみやすい大きさで、柔らかく蒸したニンジンをテーブルに置いた。すると翌日から手でつかんで口に運び、なめたり、端っこをかんだりするようになった。

「口内に異物」スプーン嫌がる傾向

 2週間ほど手づかみ食べを続けると、嫌がっていたスプーンも受け入れるように。母親は「『自分で食べる』という気持ちを引き出せた。何より楽しそうに食べてくれるので食事の準備も楽になった」と喜んだ。

 生後5~6カ月から始めることが多い離乳食。「すりつぶしたおかゆをスプーンで一口から」が標準と受け止められているのは、厚生労働省が離乳食の進め方の目安を示した「授乳・離乳の支援ガイド」に書かれているからだ。

 田角さんによると、この時期の赤ちゃんは口に異物が入るのを警戒し、嫌がることが多い。「赤ちゃんにとってスプーンは未知のもの。初めての離乳食がスムーズにいかないのは当然」と、親が食べさせる進め方に異議を唱える。

図解 赤ちゃん中心の離乳食のポイント

蒸した野菜、細長く焼いたオムレツ

 手づかみ食べを推奨する理由について、田角さんは「離乳食の開始時に大切なのは食べようとする意欲や行動を引き出すこと。この頃の赤ちゃんは好奇心から手を伸ばしてつかんだものを口に持っていき、確かめようとする。持った食べ物を口に入れてみて安心する経験が大事」と説明する。

 手づかみ食べに適した離乳食は「安全かつ新鮮で加熱した薄味のものがいい」と田角さん。蒸したニンジンやブロッコリーなどの野菜や、細長く焼いたオムレツやササミなども良い。太さ1~2センチ、長さ5~6センチくらいの大きさだと赤ちゃんも持ちやすい。

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小児科専門医の田角勝さん

栄養は? 母乳やミルクでほぼ足りる

 親は必ず近くで見守ることが必要だ。離乳開始直後はなめたり、かじったりするが、食べる量はほんのわずか。「食べない」と心配になるが、「回数も量も赤ちゃんに任せて」と田角さん。母乳やミルクで基本的な栄養はほぼ足りるので問題ない。

 身体能力や好奇心が高まる9カ月以降は、つかめる物が大きくなり、誤飲や誤嚥(ごえん)のリスクが高まる。

  • ピーナッツや大豆のような丸く小さいものは与えない
  • 口に食べ物を押し込んだり、急に驚かせたりしない
  • 真っすぐ安定した姿勢がとれるいすに座らせる

―などの注意が必要だ。

 田角さんは「離乳食が穏やかに進められると育児がぐっと楽になり、楽しくなる。赤ちゃんの食べたいという気持ちを大切にする方法を取り入れて」と話す。新著「手づかみ離乳食 赤ちゃんが自分から食べる<離乳法>」(合同出版)でポイントを解説している。

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田角勝さんの著書『手づかみ離乳食 赤ちゃんが自分から食べる〈離乳法』

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