乳幼児の塩分取り過ぎに注意…1歳児は小さじ1杯で死亡の恐れ

(2017年8月15日付 東京新聞朝刊)
 盛岡市の女児=当時(1)=が食塩の入った飲み物を与えられ、塩化ナトリウム(食塩)中毒で死亡した事件で、体に不可欠な塩分であっても過剰摂取すれば死に至る危険があることが報じられた。1歳児の場合、小さじ1杯の食塩で死亡する恐れがあるという。では、どの程度の食塩が適量なのか。乳幼児の適切な食塩の取り方や、熱中症対策としての塩分補給について専門家に聞いた。

「体重1kg当たり0.5g」の食塩で中毒症状

 食塩から得られるナトリウムは人間の体に欠かせない栄養の一つ。しかし一度に大量に摂取した場合、頭痛や嘔吐(おうと)などの症状が出るほか、重症化すると意識障害やけいれん、くも膜下出血などを起こして命を落とす危険もある。

 日本中毒情報センターのホームページによると、体重1キロ当たり最低0.5グラムの食塩で中毒症状が現れるとされ、10キロ前後の1歳児だと小さじ1杯程度(5~6グラム)の量。東京女子医科大腎臓小児科の服部元史教授(58)は「乳幼児は水分を調節する働きが未熟。万が一摂取したら中毒になりやすい」と推測する。

 ただ、「これだけの量を飲み物から取るには、海水をコップ1杯飲むような濃度になり、塩辛くて飲めない。口から大量に取ることはまずないので、心配する必要はない」と話す。

乳幼児の適量は?計るなら「二本指」が目安

 乳幼児に与える食塩の適量はどれくらいなのか。厚生労働省は、1日に摂取する目安量を生後6~11カ月で1.5グラムとし、離乳食は薄味を勧める。素材の味やだしのうま味を生かすのが基本だが「3回食になる9カ月ごろからは食塩が使える。ごく少量加えると、味に変化がついて食欲が出てくる」と管理栄養士の太田百合子さん(56)。

 太田さんによると、離乳食1回の調理に使う量は9カ月からで0.1グラム、1歳からで0.4グラムほど。二本指でつまむと0.5グラム程度といい、だいたいの目安になる。


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 一方、厚労省は塩分取り過ぎを防ぐため、1~2歳の男子で3グラム未満など、年齢別に1日当たりの目標値を定めている。太田さんは「食塩の取りすぎが気になるのは、外食などで大人の食事から取り分けたとき。麺のつゆを入れないようにしたり、次の食事を薄味にしたりして調節を」とアドバイスする。

 熱中症が心配な夏場は、塩味を売りにした食品が店頭に並ぶ。水分と同時に塩分の補給も必要と思いやすいが、熱中症に詳しい帝京大医学部救急医学講座の三宅康史教授(57)は「炎天下で肉体労働やスポーツをして大量の汗をかき、ナトリウムが失われた場合は別だが、3食きちんと食事できていれば、大人も子どもも基本的に必要ない」と話す。

熱中症対策は塩分より「こまめに水分を」

 厚労省の国民健康・栄養調査によると、大人1人が1日に摂取する塩分の平均値は10グラム。世界保健機関(WHO)が推奨する5グラム未満、日本高血圧学会が目指す6グラム未満をはるかに超え、逆に取り過ぎなくらいだ。

 三宅教授によると、熱中症の応急処置でも塩分は必要ないという。「冷たい水やお茶を、むせないように本人に持たせて飲ませる。しっかり持てないなら救急車を呼んで」と話す。

 熱中症対策で特に注意が必要なのは乳幼児。腎機能や汗腺の発達が未熟で、呼吸や皮膚から蒸発する水分量は大人の2倍以上のため、服部教授は「汗をかいていないように見えても、こまめに水分補給を」と呼び掛ける。

 ただ、夏風邪や急性胃腸炎で下痢や嘔吐がひどい場合は、塩分も補う必要が出てくる。「早めに医療機関を受診し、医師の指導の下で(脱水の治療に使われる)経口補水液を飲んで」と服部教授。十分に食事が取れない高齢者も、脱水や熱中症を防ぐのに経口補水液が適している。

認可外での死亡「体調よくするため」容疑否認

 認可外保育施設で2015年8月、預かり保育中の女児に食塩入りの液体を飲ませて死亡させたとして、岩手県警が傷害致死の疑いで元経営者の女性(34)を逮捕した。女性は食塩を摂取させたことは認めているが、「体調を良くするためだった」と容疑を否認。今月1日に処分保留で釈放された。

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