参院選で考えたい保育士の配置基準 「3歳児20人に1人」は無理がある 国は抜本的な見直しを
1人では回らない 3人以上で
6月上旬のある日の午後4時すぎ、認可保育所「西久保保育園」(東京都武蔵野市)。3歳児の保育室では、3人の保育士らが園児計20人を見ていた。保育士の1人は、おやつを食べ終えた園児を前に紙芝居を始めた。おもちゃで遊びたい子どもは、もう1人が見守る。保育補助の職員は片付けに追われた。
国が必要な保育士数を定めた「配置基準」では3歳児の場合、園児20人に保育士1人となっている。だがそれでは現場は回らない。トイレに付き添うからといって保育室を空けられない。1人で園児20人の散歩を引率するのは安全面から不安が大きい。
このため西久保保育園の3歳児クラスは、2人の担任保育士に加え、園児が多い日中は非常勤の保育士らが入り、3人以上で見守る時間帯をなるべく長くしている。西巻民一園長(58)は「国の基準通りでは運営できない。そもそも基準の想定では保育士の勤務時間は8時間だが、うちは13時間開所している」と指摘する。
厚労省は基準引き上げに消極的
人件費のやりくりにも苦労する。武蔵野市では、国の基準より保育士を多く配置した施設への運営費の加算や、勤続の長い職員への期末報償金の補助制度などを設けている。「細かく条件を設け、保育の質の向上につながるようにしている」と市の担当者。
ただ、自治体の努力だけでは地域や施設で保育の質に差が出てしまう。岸田政権は昨年11月に決定した経済対策で、今年2月から保育士の賃金を3%程度(月額9000円)引き上げる措置を盛り込んだが、西巻さんら武蔵野市内17の民間保育所の園長は、さらなる賃金引き上げや配置基準の改善を求めて市議会に働きかけた。その結果、市議会は意見書を国に提出。全国市長会も配置基準の見直しを国に要望している。
厚生労働省の担当者は「国としても保育の質の向上に取り組んでいる」とした上で、配置基準の改善については「基準の引き上げにより基準を満たさない保育所が運営できなくなり、利用児童に影響が出ると考えられるため、慎重な検討が必要」と消極的だ。
複数の党が「処遇改善」掲げるが
10日投開票の参院選でも、保育士の処遇改善を複数の党が公約に掲げる。
「コロナ禍で園児が減った際、余裕を持って保育ができ、現状の配置基準では厳しいと実感した保育士が多かった」と語るのは、保育士や保護者らでつくる全国保育団体連絡会(新宿区)の実方伸子副会長だ。
保育行政は、政府が来年4月に新設する「こども家庭庁」に移る。実方さんは「どの自治体や施設でも平等に保育を受けられるよう、保育士の配置基準の抜本的な見直しに着手してほしい」と訴える。
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