「保育士の配置基準の改善を」地方議会から国への意見書が急増、今年はもう70件超 識者は「国会で議論せざるを得ない」
保育士の配置基準
保育士1人で受け持てる園児数で、1948年に国が定めた。1998年に0歳児「6人」を「3人」に改善してから変わっていない。現在は1、2歳児6人、3歳児20人、4、5歳児30人となっている。保育所に支給される人件費に、この基準が反映される。
コロナ禍で負担の重さがあらわに
「さまざまな課題解決の一丁目一番地が、配置基準の改善」。名古屋市で保育に長く携わる平松知子さんはこう話す。愛知県の保育士らが2021年末に始めた「子どもたちにもう1人保育士を!」運動の呼びかけ人で、子ども一人一人に寄り添う保育が難しい現状などを主張してきた。
こうした声を受けた意見書が、地方議会で次々に可決されている。「質の高い保育サービスの提供と保育の担い手を確保するためには、基準の見直しが急務」。東京都清瀬市議会が今年6月に全会一致で可決し、国会などに提出した意見書では、保育士不足の背景に、過酷な労働環境や1人当たりの業務が膨大な点などを指摘している。
意見書取りまとめに動いた市議の原田博美さんは「コロナ禍で消毒や換気などの業務が増え、保育士の負担の重さがあらわになった。配置基準は元々ある問題だが、岸田政権が少子化対策に力を入れる今、改善しないといけない」と話す。
毎年増加 25件→47件→71件
こども家庭庁発足に先立つ3月には千葉県市川市議会が、保育予算の増額や基準見直しによる保育士の増員と処遇改善などを求める意見書を可決。県議会でも今年、埼玉や三重、静岡、神奈川などで改善を求める意見書が可決された。
都道府県議会と市区町村議会で可決された基準改善を求める意見書の数は、各議長会によると2019、2020年は計3件ずつで、2021年に25件、2022年は47件と急増した。各議長会に申告がないケースもあるといい、実際はさらに多いとみられる。
国は基準を「改定」しない方針
2022年には、静岡県牧之原市で通園バスに置き去りにされた3歳女児が死亡した事故や、静岡県裾野市や富山市で園児への虐待が繰り返されていたことが発覚するなどし、基準の低さがもたらす弊害が注目された。
国は今年3月に基準改善を打ち出したが、保育士の受け持ち人数を減らした施設に運営費を加算するにとどめ、基準そのものの改定はしない方針。「保育士の確保が難しく、現場に混乱が生じる可能性がある」というのが理由だ。
基準改善を訴え続ける平松さんは、意見書が増えている状況に「今の基準では、痛ましい事故や不適切保育が構造的に起きるんだと、政治家に知られてきた」と手応えを感じつつ、国の動きを注視している。
意見書とは? 決議より重い位置づけ
意見書は公益に関わることについて、住民の代表機関である議会の意思をまとめた文書。地方自治法に基づき、衆参両院の議長や関係省庁の大臣らに宛てて提出される。
全国市議会議長会の実態調査では、2022年中に全815の市区議会で計4048件の意見書案が提案された。他に都道府県議会や町村議会でも意見書がまとめられる。
議会の意思表明としては「決議」もあるが、法的根拠のある意見書の方が位置づけは重い。地方議会制度に詳しい明治大公共政策大学院の広瀬和彦講師によると、意見書は提出先に受理する義務があるが、どう扱うかは受け取った国会や省庁次第となる。広瀬さんは「意見書の数がある程度積み上がると、国会議員や官庁も無視できなくなる。国会で議論せざるを得ないだろう」と話す。