施設を「ついのすみか」としないために 神奈川県と海老名市がインクルーシブ教育で連携 知事「必要なら特区制度を活用」
志村彰太 (2024年4月8日付 東京新聞朝刊)
障害の有無にかかわらず、誰もが同じ場で教育を受ける権利を保障する「インクルーシブ(包摂)教育」を巡り、神奈川県と海老名市の教育委員会は今春、取り組みを推進する連携協定を締結した。
やまゆり園事件を受けて、地域生活へ
神奈川県立障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)での殺傷事件を受け、県は施設を「ついのすみか」としない「地域生活移行」を障害者支援政策として推進。県教委も2015年度にインクルーシブ教育推進課を設置し、障害のある生徒を積極的に受け入れる県立高校「実践推進校」を指定している。
障害の有無に関係なく共に生活する考え方は、世界の主流。特別支援学校に生徒を通わせる日本の「分離教育」に対し、国連は2022年、廃止を促す勧告をした。日本は、就労を含めた障害者への政策や社会支出が際立って少ない国と指摘されてきたため、国も改善に乗り出している。
国際標準の採用目指すも、課題は山積
神奈川県と海老名市は先月29日に交わした協定を機に「フルインクルーシブ教育」と称して国際標準の採用を目指す。しかし、学校のバリアフリー化や専門人材の配置などが遅れており、課題は多い。手厚い支援を受けられる特別支援学校の充実を求める声もあり、花田忠雄・県教育長は「世論が分かれ、どちらかを否定するものではない。安心して地域の学校に通ってもらえる仕組みをつくるのが目標」と話す。
神奈川県は2024年度、協定に基づく事業の推進に680万円の予算を計上した。まずは地域住民が目指す方向を議論し、実現に向けた課題を整理する。伊藤文康・市教育長は「みんなで議論し、主体的に関わる中であるべき姿を実現したい」と語った。
協定締結式に同席した黒岩祐治知事は「できるところから始め、県の予算で対応するが、必要なら海老名市と協議して特区制度の活用も考えていく」と述べた。