「インクルーシブ学童」で障害のある子もない子も共に成長 障害福祉サービス報酬改定の柱に

五十住和樹 (2023年1月10日付 東京新聞朝刊)
 2024年度の障害福祉サービスの報酬改定では、障害の有無にかかわらず差別なく受け入れる「インクルージョン」の推進が柱の一つに掲げられた。障害のある子もない子も一緒に育つ環境づくりを進めるため、必要な制度や報酬のあり方は何か。現場を訪ねた。
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「インクルーシブ」という言葉を広めようと、学童保育の名前に盛り込んだ「sukasuka-kids」。障害児も健常児も一緒に遊ぶ=神奈川県横須賀市で

自然によだれをふいてあげるように 

 平日の放課後、宿題をした後、おやつのハヤシライスとアイスクリームを食べながら約20人の小学生はにぎやかだ。神奈川県横須賀市の学童保育「sukasuka-kids(すかすかキッズ)」は、みんな一緒に、という意味のインクルーシブ学童を掲げる。定員31人のほぼ半分が発達障害や知的障害がある子というが、どの子なのか区別がつかない。

 当初は、おもちゃの取り合いなど障害児と健常児のトラブルがあった。お互いが思っていることを言葉にして伝え合うよう、指導員が丁寧に繰り返し理解が進んだという。

 「障害児に『よだれが汚い』と言っていた子が、自然によだれをふいてあげている。障害の有無を超えた自然な振る舞いを子どもたちから教わる」と責任者の小林博子さん(49)。小3の長女(9)と発達障害がある小1の長男(7)を通わせている母親(39)は「長男にとっては過ごしやすい環境。こんな場所が増えることで世の中が変われば」と話す。

障害児にも健常児にもプラスになる

 この学童保育は末娘(13)に障害がある五本木愛さん(49)が2018年4月、障害児の母親たちとつくった。障害児は放課後等デイサービス、健常児は学童保育と分かれ、障害児の受け入れを拒む学童もある中、「一緒に過ごすことが障害児も健常児にも、育ちにプラスになる」と考えたのがきっかけ。2021年春には未就学児のインクルーシブ一時預かり保育事業も始めた。

 五本木さんは「健常児にとっては相手のことを想像し、思いやる心が育つことは大きな財産。一方、障害児は小さな頃から多彩な人と関わる経験が生きていく上で鍵となる」と語る。

 今回の報酬改定では、放課後等デイサービスなどが、障害児が学童保育に通うよう取り組んだ際に、障害福祉サービスの報酬として加算を広げる案も議論された。「障害児が健常児と交流する地域の活動に参加したり、学童保育を利用したりした場合にも報酬がついたら」と五本木さん。

放課後デイと学童が連携してほしい

 全国児童発達支援協議会(東京)の北川聡子会長(63)は「障害のある子もない子も互いに理解し合って友だちになれるように、先生が間に立つ意識や取り組みが必要」と指摘。協議会は保育所や幼稚園に在籍する障害児と家族を支えるため、専門知識を持った人が訪問する「保育所等訪問支援」の機能を高めた「地域こども発達サポートセンター」の創設も、今回の改定に合わせて提唱した。

 2022年9月、国連障害者権利委員会は、すべての障害児にインクルーシブ教育を確保するため合理的配慮を保障するよう、日本政府に勧告した。認定NPO法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議の常任委員岡本直樹さん(41)は「勧告を生かし、小さい頃から同じ環境で過ごしたり学んだりすることが共生社会への第一歩。放課後等デイサービスと学童保育がうまく連携して」と話す。

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  • 匿名 says:

    障害があるとかないとか、それが個性だと考えれば、できない子にできる子が手助けする。知らない子に知っている子が教えてあげる、それは当たり前のことだと思うし、お互いの存在を認識するからこその自然な行動につながると思いました。子供の頃からそういう環境に身をおける子供は幸せだと思いました。

    娘が通っていた小学校も学童もは支援学級の子との交流は当たり前のようにしていたので、今でも当たり前のお友達です。インクルーシブの考え方が広まるといいなと思います。

  • 匿名 says:

    「よだれが汚い」と思わなくなることは良いことですが、「自然とふいてあげる」のが一概に良いことだとは思えませんでした。

    いわゆる健常の子が、障害のある子のお世話をするだけの状態が生み出されるならそれはインクルーシブな状態ではないように思います。

  • 匿名 says:

    この現場では上手くいっているようだが、「放課後等デイサービスと学童保育がうまく連携して」では現場に丸投げになる気がしてならない。

    私はいま学童の現場にいるが、時給も良くなく、人員もギリギリで回している状態。グレーゾーンの子相手ですら日々苦労しているし、他の親から「あの子とは一緒にしないで」と言われたりもする。

    障がい児の専門家の配置、部屋の広さや備品等の整備、親の意識改革、職員の処遇改善をまず行うべきで、とりあえずインクルーシブしてから考えよう/整えようというのは本当に止めてほしい。

     無回答 無回答
  • なな says:

    息子が自閉症で放デイは待機で入れず、学童申請したが申請が通れば利用出来ると言った状況です。学童と放デイの間!まさに私が求めていたことをしていて自分の地域にあったらいいのに……とおもいました!

    全国どの市にも放デイが充実し、待機がないのが理想ですが、放デイと学童の間のような施設が増えるとまた利用のニーズが変わるのでとても、素晴らしい取り組みです!!

    このような施設が増えること願ってます!

    なな 女性 30代
  • 匿名 says:

    私が新規立ち上げをしたいと考えてた放デイが、まさしくこの形です!

    私が以前、学童に勤めていた時に発達障害の新1年生が利用したいと申し込みに来られました。しかし、十分なケアができないからという理由で利用を断るという結果になりました。

    この事案で、どうして同じ学校に行ってる児童なのに、障害を理由で学童を利用できないという理不尽さに憤りを感じました。 それがきっかけで発達障害の児童さんが通う放デイで働くことになりました。

    それでもやっぱり障害があるなしで同じ放課後を別々の所で過ごすということにものすごく違和感を覚えました。一緒に過ごせないものなのか?とずっと考えてて、同じような考えで既に立ち上げてる方がおられるということにすごく勇気をもらいました。

    できれば詳しくお話を聴かせていただきたいぐらいです。なぜなら来年に放デイを立ち上げる事を目指しているからです。

     女性 50代
  • うさぎ says:

    いい事だと思う。広く各地で行って欲しいと思う。障害を持っている人とそうでない人との自然にバリアフリーにしていくには、必要な事だと思うし、素敵な企画かと。確かに、携わる人はちゃんと理解できる方ではないといけないと思いますが。近くにあれば協力したいと思う。

    うさぎ 女性 50代

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