受験で緊張しないために 一流アスリートの思考法とテクニックを紹介します
「もう一人の自分」「握って緩める」
多くのアスリートにとって、心の平静を失う緊張は難敵です。ここ一番の勝負のとき、硬くならず、ベストのパフォーマンスをするにはどうしたらいいのか。「永遠のテーマ」ともいえる課題に選手たちはそれぞれ対処法を考えてきました。
例えば、大リーグ・ダルビッシュ有投手は自身のSNSで「もう一人の自分がいて、試合はその自分が投げると考えると緊張しなくなる」といい、ソフトバンクや巨人の4番として活躍した小久保裕紀さんは、打席の前にバットを握り締め、緩めることを繰り返す訓練で緊張しなくなったそうです。
「重圧に向き合い、慣れるのが大切」
長年、スポーツ選手を取材してきて驚いたのは、彼らの多くが「緊張する」という事実でした。「緊張なんてしたことがない」というのは少数派。柔道のシドニー五輪金メダリストで日本男子代表監督の井上康生さんは、「一流のアスリートは緊張しないと思われるかもしれませんが、そうではありません。みんな緊張するんです」と話します。
長野冬季五輪のスピードスケート男子500メートルで日本人初の金メダルを獲得した清水宏保さんは「プレッシャーは、逃げても逃げても追い掛けてくるもの。向き合うことが大切」と言い切ります。緊張から試合前は眠れなかったり、気持ち悪くなったりしたという清水さん。「トップアスリートは重圧に何度も向き合い、慣れることでコントロールしているのです」と説明してくれました。
向き合ってコントロールするとはどういうことでしょう。ボクシングのWBAミドル級王者でロンドン五輪金メダリストの村田諒太選手は以前、「スポーツ心理学では『自分がコントロールできるものをコントロールしなさい』と教えています。言い換えれば、結果や相手はコントロールできないですよね。だから、僕らは自分の気持ちの持ちようや事前の準備を整えることだけに集中するんです」と話していました。
緊張とリラックスの「逆U字曲線」
元陸上選手で男子400メートルハードルの日本記録保持者・為末大さんの講演を聴いたことがあります。為末さんはより具体的に緊張の正体と対処法を教えてくれました。
為末さんによると、スポーツ心理学には「逆U字理論」という考え方があるとのこと。効率(パフォーマンス)と緊張はUの字を逆にしたグラフで表され、「適度な緊張はむしろ良い」とのこと。人はリラックスしすぎても、緊張しすぎても、直面する課題に集中できないそうです。
緊張で頭の中が真っ白になることを為末さんは「ポップアップが止まらないこと」と表現しました。緊張しすぎて、頭の中に不安要素が次から次へと湧いてくることが「真っ白」の正体なのだそう。「そうならないために僕はレースのとき、たくさんあるハードルの中で、3つめのハードルをうまく跳ぼうと考えていました。マイナスの思考が止まらなくならないよう、一つのことだけを考えたんです」と話していました。
「体の末端を揉む」「手の匂いを」
このように一流のアスリートは、自分が緊張しすぎない方法を持っています。ちなみに、スケートの清水さんは自著の中で「緊張を感じたときは、体が硬直するので、体の一部でよいのでほぐしてあげること」とし、例えば、指先など体の末端をもむことを勧めています。また、「手のひらの匂いをかいでみるのもいい。そうすると、体の周りに温かな空気が感じられ、リラックスできます」。どちらも訓練が必要だそうですが、現役時代に自身がやっていた秘訣(ひけつ)だとか。
試験で答案用紙を前にすると、誰もが緊張しますよね。そんなとき、「どんな人間でも緊張する。緊張しないのではなく、ほどよい緊張を保つこと」と思い出すだけで、気持ちが少し楽になるかもしれません。アスリートたちの経験を知って、一人でも多くの子どもたちが実力を出し切れますように。参考の一つになれば幸いです。
コメント