【選択的夫婦別姓がわかるQ&A②】子どもの姓はどうなる? かわいそうではない?

【疑問3】別姓夫婦の子どもの姓はどうなるのでしょうか。

 <答え> 世界でも別姓の選択が認められていないのは日本だけ。諸外国では子どもの姓についてさまざまな制度があります。アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは父の姓、母の姓、父母の複合姓などが認められています。新たな創作姓も可能な国やイギリスのように原則自由とする国もあります。

 決め方についても、ルクセンブルクのように「複合姓を選んだ場合に、どちらの姓を先にするかで合意できない場合は身分登録官が抽選」、韓国のように「原則は父の姓、合意した場合には母の姓」という国もあります。

 タイミングも、スイスのように「婚姻時に夫または妻の姓を選択。ただし生後1年以内は他方の姓に変更できる」という国もありますし、デンマークのように「出生後6カ月以内に定めがないときは母の姓。複数の子の姓の統一は求めない」など国によって本当にさまざまです。

 日本でも、これまでの議論でいくつかの提案がされています。代表的な意見は以下の2つです。

 1996年2月に法務省が公表した「民法の一部を改正する法律案要綱」では、別姓を選択する夫婦は、結婚するときに子どもの姓を定める、とされています。この案によれば、兄弟姉妹の姓は一致することになります。

 これに対し、2018年に5野党1会派(立憲民主党、国民民主党、無所属の会、共産党、自由党、社会民主党)が衆議院に提出した「選択的夫婦別氏法案」では、別姓夫婦の子の姓は、結婚したときではなく出生のときに父母の協議によって決めることになります。この場合には、兄弟姉妹で姓が異なることもありえることになります。

【疑問4】別姓を選ぶと、子どもの姓をどちらにするかいつまでも決まらないのではないですか。

 <答え> 別姓夫婦の場合、子どもの姓をどちらにするかいつまでも夫婦で意見が一致しない可能性があるのではないか、という疑問が寄せられることもありますが、子どもの下の名前について考えてみてください。今も、子どもの下の名前は無数の選択肢の中から夫婦で一つに決め、出生届の届け出期間内に届け出ています。14日以内に決まらない場合は、まず出生を届け出て、追って名前を届け出る方法も認められています。いつまでも決まらず名前がないという例は聞いたことがなく、同じように、いつまでも姓が決まらない例は想定しにくいでしょう。外国でも、このような問題は特に生じていないようです。

 別姓夫婦は、自分だけでなく、相手の配偶者も自らの姓を使い続けたいという気持ちを持っているということを大事にし、自分の姓を相手に強要することにも抵抗があって別姓を選んでいることが多いです。 そうであれば、子どもの姓を自分の姓にすることに双方が固執するとは考えにくいでしょう。

【疑問5】片方の親と姓が違う子どもはかわいそうではないですか。

 <答え> 選択的夫婦別姓制度に反対する理由として、「子どもが片方の親と姓が異なるとかわいそうだ」という点を挙げる人もいます。しかし、再婚、国際結婚、事実婚の場合など、すでに親子別姓で暮らしている家族は多く、その子どもたちをすべて「別姓親子だからかわいそう」と決めつけるのは偏見ではないでしょうか。親と姓が同じかどうかで、幸せかどうかが決まるものではありません。

 事実婚などで両親の姓が違う家庭で育った子どもに聞くと、「いじめられた経験もない。的外れ」「同じ空間で生活し、家族の一体感があった。幸せな人生」「普通に仲のいい家族なのに、なぜ他人がかわいそうと決めつけるのか」という声が聞かれます。

 2022年の最高裁決定で、裁判官の一人は、親と姓が違う場合に子が受けるおそれがある不利益は、姓が違うことが原因というより、家族は同じ姓でなければならないという価値観やこれを前提とする社会慣行に原因があることを指摘しました。

 親子同姓にこだわるならば、子を持たない再婚配偶者が、子を持つ再婚配偶者の姓に変更しない限り、親の再婚のたびに、子どもはその再婚相手の姓に変更しなくてはならないことになります。既に自意識が芽生えた子にとっては、それまでの人生や人格を否定されたという意識にもつながりかねないとして、むしろ「子への配慮も踏まえた具体的な検討を重ねることが国会に期待されている」とも記しています。

◆次の疑問は「戸籍はどうなるの?」→近日中に公開予定

【子育て世代の疑問に答えます】

 9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。

 最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。

選択的夫婦別姓とは

 夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入を盛り込んだ民法改正法案要綱を答申したが、自民党保守派から「家族の絆が壊れる」といった反対意見が強く、国会に上程されないまま30年近くの年月が流れた。以前は別姓を認めていなかった国も男女平等などの観点から制度を是正する中、日本は別姓を選べない唯一の国として取り残されている。2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%が夫の姓を選択した。

 別姓を認めない日本に対し、国連女性差別撤廃委員会は再三の改善勧告をしている。日本は、旧姓を通称使用する独自の政策を推進しているが、グローバル経済の中、二つの名前を使い分けるローカルルールとして混乱のもとにもなっている。多様性や公平性なども含めて課題に対応する「DE&I」の観点から、経団連は2024年6月、選択的夫婦別姓の早期実現を政府に求める提言を発表した。

著者の紹介

◇寺原真希子(左) 東京大法学部卒業後、司法試験に合格。長島・大野・常松法律事務所など東京都内の事務所で勤務後、米ニューヨーク大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士資格を取得。帰国後、旧メリルリンチ日本証券での企業内弁護士を経て現在、東京表参道法律会計事務所の共同代表。2011年に選択的夫婦別姓訴訟弁護団に加わり、2022年から弁護団長。

◇榊原富士子(右) 京都大法学部卒業後、1981年から弁護士。婚外子相続分差別訴訟、子どもの住民票や戸籍の続柄差別違憲訴訟などを担当。離婚と子どもに関するケースを多く扱う。2009~14年、早稲田大大学院法務研究科教授。2011~2022年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団長を務めた。