外国人親子の「ブックスタート」を後押し 絵本に8言語の紹介シート、無料提供

(2018年12月28日付 東京新聞朝刊)
 自治体が地域の赤ちゃんと保護者に絵本を贈り、その楽しさを伝えようという「ブックスタート」。国内で始まって18年目になるが、増え続ける外国人親子への対応も必要になってきた。推進するNPO法人ブックスタートは本年度、自治体に紹介している30作品について、内容などを8つの言語で紹介するシートを作り、無料で提供を始めた。 

ボランティア(右)から本を紹介してもらうチンさん母娘=茨城県牛久市で

タガログ語、スペイン語など8カ国語で内容説明

 「赤ちゃんはみんなで育てていきましょうね。図書館にはこういう絵本もたくさんありますよ」

 12月初旬、茨城県牛久市。ブックスタート会場では、中国籍のチン・ケールさん(35)が8月に生まれた長女を抱きながら、ボランティアスタッフの話を聞いていた。この日贈られた絵本「よくきたね」を読み聞かせてもらうと、ジーッと絵を見つめる赤ちゃん。チンさんも自然と笑顔になった。

 スタッフが絵本とともに手渡したシートには、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、タガログ語、スペイン語、タイ語、ベトナム語の8カ国語で「お母さんに呼ばれた赤ちゃんが、よちよちと歩いていきます」などと絵本の内容が説明されている。

日本語読みはローマ字表記 母語でも楽しんで

 例えば絵本「しっぽがぴん」のシート。「『ぴん』はしっぽを上げた様子、『たらり』はしっぽを下げた様子を表した言葉」など、日本の絵本に多く使われるが、母語でない人には分かりにくい擬音語や擬態語の意味も説明。絵を見ながら赤ちゃんに語りかけられるよう工夫した。

 すべてのページの日本語読みもローマ字で表記。日本語で読み聞かせる時に役立つようにした。一方「(あなたの)母語でも自由に楽しんで」とのメッセージも載せた。

すべての赤ちゃんの幸せ願う気持ち、届けたい

 シートを作ったNPO法人ブックスタート(東京都)の地域支援担当・出原(ではら)道恵さんは「ブックスタートは、その地域に生まれたすべての赤ちゃんの幸せを願う気持ちを届けるもの。手渡すのは日本の絵本だけれど、外国人親子にもより楽しんでもらいたい」と狙いを語る。牛久市のブックスタート担当、星野美紀さんも「その場で説明するだけではなく、持ち帰ってもらえるシートがあるのはありがたい」と喜ぶ。

 日本で事業が始まって18年の間、日本で暮らす在留外国人は増え続け、今年6月に過去最高の263万人(法務省速報値)に上った。今月、改正入管難民法が成立。来年4月以降、政府は外国人労働者の受け入れを拡大するが、出原さんは「地域で共に暮らす住民として支えたい」と話す。

 定住外国人が多い浜松市では、出版社などの許可が得られた3冊について、英語とポルトガル語、中国語の訳文シートを作成し、必要な親子に渡している。担当の鈴木早苗さんは「日本語と母語のはざまにある親子にこそ、ブックスタートのような機会は必要。少しでもニーズをすくいとっていきたい」と話す。

ブックスタートとは

 1992年に英国で始まった活動。日本では2000年の「子ども読書年」に紹介され、翌2001年4月に12自治体で本格的に始まった。ゼロ歳児健診などの機会に、絵本をひらく体験と、絵本のプレゼントをセットで行う。子育て世帯と地域がつながるきっかけにもなる。11月30日現在、全国1035市区町村で実施されている(NPO法人ブックスタート調べ)。